JIBUNマガジン

2021年01月号 vol.66

地域の人たちがソーシャルファミリーに/子ども村:中高生ホッとステーション

2021年01月18日 22:04 by inaba_yoko

都電荒川線(さくらトラム)で町屋から一駅目、「町屋二丁目」を降りて右側のビルの2階に、「子ども村:中高生ホッとステーション」はある。エレベーターを降りると正面に、「子ども村:中高生ホッとステーション」の文字がカラフルにデザインされた大きな看板が置かれ、大事に作られた作品だと一目でわかる。そこからも、この活動には多様な大勢の人が関わっているのだろうと推察できる。

ドアを開け中に入ると部屋が一望できる。広いフロアは135平方メートルほど。もともとデイサービスの施設だった場所を借りたという。まだ新しくて設備は充実していて、改装する必要もなくそのまま使っている。

フロアと対面している大きなキッチン、洗面台、複数のバリアフリーのトイレ、都電の走る道路に面した部分はガラス張り。キッチン奥のパントリー、静かに学習できる小部屋、カウンターのある受付室、倉庫なども備わっている。また、照明、空調設備もしっかりしている。

備品もテーブル、椅子、パソコンや2台の大型テレビ、台所用品もすべて引き継いだ。バンド練習ができるように、キーボードやドラムセット、エレキベースもあり、これらの楽器は、区内に住むご住職さんの寄付だという。

ここ町屋二丁目には昨年6月に引っ越してきた。

スタッフの鈴木訪子(ことこ)さんは「使い勝手がいいんですよね。全体が見渡せるけど、広いので1人の空間も作れて、なおかつ独りぼっちじゃないような雰囲気もあって、みんなのやっていることも見えつつ、邪魔されない」と言う。それまでは一軒家で、家庭的でいい半面、部屋が壁に仕切られて3つに分かれていたため、みんなで何かをすることがなかなかできなかった。

「子ども村:中高生ホッとステーション」の活動は今年で8年目を迎えた。「ホッとステーションは荒川区で一番最初にできた子どもの居場所です」と鈴木さんは言う。荒川区は子どもの貧困問題をかなり早い時期から取り上げていたそうだ。「『荒川区自治総合研究所』を作って、教育、子育て、福祉などの分野から集まって、子どもの貧困問題の解決に向けて動いていましたが、相談支援と同様に学習支援が大事ということが打ち出されました」

そこから区は、2012年、「学びサポートあらかわ」という無料学習会を始めた。ところが区の事業なので、参加する子どもを特定することはできない。希望すればだれでも行ける。そうすると、関心のある親の子どもが来る。本当に必要な子は、そもそも親が関心をもつような余裕がない。

コーディネーターとして参加した大村みさ子さんは思った。「本当に必要な子が来ているのだろうか」。だからといって、家庭まで入り込めず、困難な子どもの状況はわからない。

「本当に必要な子どもに届くには、もっと家庭の中まで入ってサポートしていかないと、難しいのではないだろうか」。大村さんは、当時いっしょに活動していた大学院生と2人で、荒川区社会福祉協議会を訪れた。

「家族機能が弱って、SOSも出せない。人間関係もすごく希薄で、地域で孤立していても、子どもはなかなかそれを訴えることができない。私たちがソーシャルファミリーになる。地域の人たちがソーシャルファミリーになればいいのではないか。そういうものを作りたい」と、大村さんは、当時社会福祉協議会の職員だった鈴木さんに相談した。

「区にも社協にも中高生のための施策がない」と鈴木さんは思った。「『これ、絶対必要だね』と、当時の社協の局長と、歳末助け合い募金による先駆的な事業への助成金を出し、立ち上げを応援した」と鈴木さんは言う。

大村さんたちによる「子ども村:中高生ホッとステーション」は、必要な子どもたちに必要な学習支援や暮らしの支援が届く活動を始めた。中高生というが、小学生も参加できる。

翌年、区子育て支援課より、居場所事業への補助金が出ることになり、様々な居場所ができていった。クローズでやっているもの、子ども食堂のようにオープンにしているもの、困難を抱える人たちを支援するグループもいろいろと少しずつ増えていき、今ではその数は24団体に及ぶ。

2017年、子どもたちを真ん中に、みんなで手をつなごうと「荒川子ども応援ネットワーク」を作った。活動の当事者だけではなく、関係の行政機関を全部入れたネットワークだ。支援を必要とする子どもの存在は、地域ではなかなか見えにくく、行政の相談支援のワ-カ-との連携は不可欠だ。また、ボランティアセンタ-が事務局を担い、地域住民や企業からの食材や寄付の支援などを1カ所で受け、みんなで分かち合う仕組みができたことにより、支援者が増え、活動の推進への力になっている。ネットワーク会議、学習会の開催、広報啓発事業、ボランティアの受け入れマッチングも行っている。

「子ども村:中高生ホッとステーション」はWAM NETの助成金を得て、これまで7年間続けた「子どもの居場所活動」に加え、2020年より、常設の活動場所として新たな活動がスタートした。子ども向けには、毎週木曜日の夕方からボランティアの手作りの夕食をみんなで食べ、学習支援や談話を、第3土曜日は子どもたちがメニュ-を考え買い物をし、自分の力で食事をつくる経験とごはん会を実施している。

これまでのホッとステーションの取り組みの中で、不登校の子どもを持つ親たちから、子どもの日中の居場所が欲しいという声があった。それに応える形で、2つ目の活動として多世代の居場所づくりも始めた。「いろいろな価値観を持った大人に子どもたちが出会ってほしい、そこで認められ、いろんな経験をして、自己肯定感を高めてほしい」と鈴木さんは言う。活動は、「ユニバーサルステーション」と名付けられ、毎週月水金10時半~15時半に開かれている。

カフェタイムや昼食の提供があり、囲碁、書道、創作、植物・動物講座、ポップス音楽講座、楽器演奏、日本舞踊、紙芝居、農作業など多彩な活動が行われている。生きにくさを感じている子どもや若者をはじめ、子どもから大学生、社会人、高齢者まで幅広く、多世代が一緒に過ごし、だれもが先生、だれもが生徒、お互い様の関係を作っている。

ある水曜日には荒川区在住のプロの音楽家、三浦鯉登(りと)さんが来た。子どもたちは鯉登さんを囲み、キーボードやドラム、エレキベースを楽しそうに演奏していた。その姿を見て、このような活動が必要だと実感した。

 大学生の存在も大きい。鈴木さんは「世代をつなぐ役割を担ってくれる。大学生は子どもにとっては近い存在。高齢者も若者を通し、子どもたちに近づきやすくなる。大学がちょうどオンライン授業になったのでラッキーだったの」と笑う。大学生もオンライン授業に疲れるとここにきてご飯を食べ子どもたちと遊び、気分転換かでき、さらに残ったご飯を持って帰れる。高齢者はスマホを持ってきて学生に設定してもらうなど、大学生にとっても高齢者にとっても良いことづくめだ。

「あったかくておいしいごはんを食べると、気持ちがほぐれる。勉強と合わせてご飯が入ることで、ちょっと気持ちがほぐれるっていうのもあり、必ずご飯がセットになっています」

この先、どのようにしていきたいのだろうか。「荒川区にはこういう場所はほかにないので、いろんな場所に作れるといいなと」。そしてこう結んだ。「専門職として子どもを迎えるのではなくて、地域のおじさんおばさんが、いっしょに遊ぶ。それを通して子どもに自己肯定感を持ってもらいたいし、傷ついている部分があれば羽根を休められる場所にしてほしい。自分に少し自信が持てて、次のステップを自分たちで選べるようになればいいなと思っています」(稲葉洋子)

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