JIBUNマガジン 文京区

2023年05月号 vol.94

子どもの「やりたい」にふたをしない。失敗を重ね成長する姿を見守る/「森のようちえん」を横浜で実践する「もあなキッズ自然楽校」

2023年05月16日 08:23 by Takako-Oikawa
2023年05月16日 08:23 by Takako-Oikawa

まぶしいばかりの緑の中で、子どもたちが思い思いに遊んでいた。棒を持って水の中に入り、「釣り」をする子。大きな飛び石の上に乗って小川を渡ろうとする子。川の泥水の中で、帽子を洗い出す子も。森のようちえん「もあな保育園」の1~2歳の子どもたちだ。

横浜市の港北ニュータウンにある緑地で、自然体験活動を軸にした保育を実践するNPO法人もあなキッズ自然楽校が運営している。代表の関山隆一さんは「0歳でも1歳でも、子どもにはやりたいことがいっぱいある。ここでは子どものやりたいことにふたをしない」と話す。

「森のようちえん」とは、北欧で始まったとされる野外保育活動で、日本でも様々な形で取り組まれており、森のようちえん全国ネットワーク連盟によれば、「自然体験活動を基軸にした子育て・保育、乳児・幼少期教育の総称」という。保育園や子育てサークルなどの取り組みも含まれる。

もあなキッズ自然楽校では、2009年に3~5歳児の「めーぷるキッズ」を開園したのを皮切りに、0~2歳児の「もあな保育園」、学童保育「もあなのいえ」など、横浜市内外に7施設を運営。いずれも「森のようちえん」をうたい、自然体験活動を軸にしている。「子どもがやりたいことを自分で選択できる環境としては、自然が一番いい。大人が何か設定する必要もない」と関山さんは話す。もあな保育園やめーぷるキッズでは、歩いてすぐのところにある緑道が活動のフィールドだ。多種多様な木があり、土手があり、水辺があり、広場もある。

「東京の園に行ったとき、自然の中では遊具がないし、遊び方がわからないだろうと、ぬいぐるみを持って行った保育者がいたが、そんな必要はない。子どもたちは木の枝ひとつ手にしただけで素晴らしい想像力を働かせて遊び出す。0歳児だって立派な意思がある。子どもたちの際限のない創造性に、大人も学ばせられる」

川の中で、2歳ぐらいの子が、尻もちをついたのか、泣き出した。保育者は何も手だしせず、見守っている。「彼はどうやって脱出できるか。あえて手を貸していない」と関山さん。保育者は「いかないで」「だめ」などの禁止用語は使わない。「おもしろそうだねー」などと話すけれど、声掛けは必要最小限。「子どもが失敗することも経験のひとつ。心配だ、とはいくらでも言えるけど、保育者がそこで見守れるのは、子どもとの間に信頼の糸があるかどうか。どこまで信じて待つことができるか」

時間はかかったが、水にはまっていた子は立ち上がり、どうにかして岸に上がることができた。ひとしきり遊んだあと、全員で帰園。水に帽子をじゃぶじゃぶ浸していた子たちは濡れたままの帽子をぽんとかぶせられて帰っていった。

2歳児までの子たちは正午ごろまでに帰園しご飯を食べ、お昼寝をして、また外に出る場合もある。3歳児以上は週2日、おにぎりまたはパンを持って出かけ、15時ぐらいまで自然の中で過ごすという。「帰園しなくてよい日は遊びの連続性が失われない」。雨の日は上下レインウエアを来て出る。雷の日と、冬の冷たい雨の日以外は毎日野外活動だそうだ。5歳児になると、毎朝ミーティングをして、自分たちでどこに行って何をするかを決める。多数決はしないので、なかなか決まらず昼近くまでかかることもあるという。

服も靴も濡れたり泥だらけになったりするが、保護者にはそのまま返す。すり傷や切り傷も多いが、「すみませんとは言いません」。小さいけがをたくさんすることが、大きなけがをしないことにつながる。こうした園の方針は、説明会で話し、承諾する保護者だけが入園する。というのも、もあな保育園は横浜保育室(認証園)、めーぷるキッズは認可外施設なので、役所を通さず、保護者と直接契約できるからだ。他に認可保育園も運営しているが、そこでも入園の条件は説明会を聞き、園の方針を理解した上で申し込むこと、だそうだ。「うちにはサービス、という言葉はありません。保育園はサービスを提供する場ではない。親とつながる、協働の場なんです」

関山さんが見据えるのは、30年後の社会の姿だ。給食には無農薬野菜を使い、食育に力を入れる。牧畜は環境破壊の原因なので、乳や卵は使わない。内装も家具も玩具も国産の木材を使ったものにし、「木育」に力を入れる。

「子どもには、いいこと見つけた!という瞬間があるでしょ。いろんなアンテナを張っていて、ピーンときたものに飛びつく。遊びがどんどん移っていく。ほぼ何も考えていないので、意思でも選択でもない。主体性も超えてる。能動でも受動でもない『中動』とでもいうか」。大人が考えている世界とはまるっきり違う子どものすごさ、共感性、本来的に持っているものがわき出てくるような環境こそが大事だと関山さんは考える。大人の固定観念をとっぱらい、いかに子どもを取り巻く環境を開拓していくか。それは保育者、大人の責務だ。「受動的に育った子が、大人になって社会に出て、自分で考えて行動するのは無理。30年後、自分でいいことを思い付き、想像できる、そんな大人が1人でも多くいる社会を描きたい」(敬)

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