JIBUNマガジン

2019年06月号 vol.47

谷根千のまちを背景に作られた映画「下街ろまん」が大ブレイク!/監督、孫大輔さんに聞く

2019年06月03日 11:59 by inaba_yoko

 1人の青年がうつ病にかかるが、まちの人々、まちの風物など、まちが持つ力によって1年後には元気になっていく……それが映画「下街ろまん」のストーリー。まちへつなげる素敵な女性も登場。映画監督をつとめた孫大輔さんが、モデルとなった友人の話と自分の経験などから作り上げた物語だ。

「下街ろまん」より(孫さん提供)

 孫さんは、佐賀県鳥栖市出身、東京大学医学部卒業。医学博士。現在日本プライマリ・ケア連合学会に属し、家庭医療専門医で、東京大学医学部で教鞭をとりながら、その忙しさの中でチームで映画を制作した。

 5月11日(土)これが7回目という千駄木5丁目にある「谷根千記憶の蔵」での上映会に参加し、終了後お話を伺った。

谷根千で人と人をつなぐ人たちに出会った

 忙しい日々の中で、なぜ映画作りをしたのだろう。「映画が好きだからです!」と孫さんはきっぱり。

 「いろんなきっかけで谷根千のまちに来た頃、谷根千工房の山崎範子さんとの出会いがありました。まだ『人見知りする』というような東大生キャラが抜けていなかったのですが、範子さんの案内でどんどんまちへ出ていったり、芸工展に屋台を出したりして、まちのおもしろさに気づきました」また、「映画にも出てくる居酒屋系カフェ『のんびりや』での人と人とのここちよい距離感にもほぐされました」という。

 年数を重ねるにつれ、孫さんにとって、まちは魅力を増していった。映画の中で、銭湯のシーンを使ったのは、銭湯はコミュニティの象徴だと、範子さんが「叫んで」いたからだという。

 「もともと2010年から、根津のカフェで市民と医療従事者が対話する『みんくるカフェ』を開催していました」。「みんくるカフェ」は今では日本中に拡がっている」という。「その活動で山崎さんのような、人と人つなぐキーパーソンとなるようなおもしろい人たちと出会い、いろいろなところに、いろいろな人と繋がりができていった」という。

 そして2016年、まちのひとたちがつながり、楽しい活動ができるように、「谷根千まちばの健康プロジェクト(まちけん)」を立ち上げた。 まちけんには、落語、ダンス、映画、屋台活動(屋台でコーヒーを提供して対話する)などの「部活」があり、いろいろな人が参加して楽しめるように敷居が低く作られているという。

死にそうな思いで映画学校へ

 ではなぜ監督になったのか。「映画学校で勉強したから、やりたかった」と、こちらもきっぱり。

 まちけん「映画部」では前から、みんなでわいわいがやがや上映会をやって楽しんでいたが、一昨年の夏に「映画、撮れるんじゃないか」とひらめいた。すぐに取りかかるつもりで映画作りワークショップをやろうと、知り合いの監督に声をかけたが断られた。

 「そんなに簡単に力を貸してくれるものじゃない」とわかり、孫さんはすぐにネット検索をして、映画学校に通うことに決めたという。「土曜に通える学校を見つけて、パンフレットを取り寄せたら、とても大変そうでヤバい」。それでも2017年末に入学申込書をポストに投函した。忙しい毎日がもっと忙しくなり「死んじゃうんじゃないか?」(※注!孫さん医者です)と思ったが、「みんなで作れば楽しいはず」「駄作となっても(!!)完成させよう」と決めた。

監督として(孫さん提供)

 6カ月間映画学校に通って、2018年8月に、第1回映画制作のミーティングを開いた。千駄木と谷中の境界線にある「よみせ通り商店街」の路地、「すずらん通り」にある「おでん処猫舌」の店主、渡辺正弘さんは、かつてスタッフとして商業映画制作にかかわったこともある人だが、「面白そうだ」と参加した。しかし、「下街ろまん」の台本があがってきて、「素人臭いしつまんない。これで撮るのか?」と思ったそうだ。しかし、孫さんと直接話して、「これはいけそうだ」と感じ、すべての時間をかけ、照明係として撮影に参加した。

上映会で話す渡辺さん(左端)

 「歳をとると居場所がなくなる。参加することによって、映画作りが居場所になり癒された」という。「まちでの撮影は、最悪、怒られて中止になるかもと思っていましたが、多少文句は出たものの、本格的なクレームはありませんでした。まちのみなさんはすごく協力的でした。スタッフだけでなくいっしょに作ってきたと感じています」と孫さん。

台詞がぎこちない!?

 主演2人のうち、ひとみ役の女性は、劇団青年団所属のプロの役者さん。民生(たみお)役の男性も青年団系列の劇団に所属していた方だ。もともと青年団の芝居は、「現代口語演劇」といって、台詞は日常の会話に近い話し方ですすめられるそうだ。民生役、ひとみ役の演技は抑制された表情・台詞で進められていてわざとらしさや不自然さがない。台本は主演の2人がダメ出しをして直してくれた。

 「『のんびりや』につどう、坊さん、落語家と彼女、元ボクサーの役者は、ぼくが本当に『のんびりや』で出会った人たちをモデルにしていて、台詞はアドリブでやってみて面白かったので録音して書き起こし、それを読んでもらおうとしたら、今度はたどたどしくなってしまい、アドリブにもどしたらまた自然体でおもしろいものになりました」

 「全体的に人物のアップは少なく、説明的なシーンは減らし、演出も派手さをさけています。観る人の解釈の幅を持たせたかったからです」

「下街ろまん」より(孫さん提供)

 観る前は、プロパガンダみたいに、まちの健康を主張してくる作品かと想像したが、まったく違った。人もまちも強調や叫びや押しつけがなく、それがとても心地よく感じられて、最後の方のシーンで青年の心の病が回復したと気づく人は気づく。ほんの少し明るい表情を見せるが、観ている人たちは、それをそっと感じ取った。

 今後、新しい映画をつくる予定は? 「この先は、どうするかわかりませんが、ぼくが忙しくてできなくても、映画部のだれかが別の作品を作ると思っています」と孫さんは笑顔で言う。孫さんがチームで、映画「下街ろまん」を作っていく過程や上映会をあちこちで開催することで、人と人がさらにつながり、まちは前より面白くなり、人を癒す力、楽しさを生み出す力を増したことは間違いないと思った。

 今後の上映予定はまちけんのサイトや「下街ろまんプロジェクト」のFBページに掲載されている。近場では7月6日(土)15時から千駄木の坂下会館で、7月19日(金)19時から千駄木のKLASSで上映会&森まゆみさんの対談も開かれる。(稲葉洋子)

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