JIBUNマガジン 文京区

2022年10月号 vol.87

ただの空き地が想像力わく自由な空間に/谷中の「貸はらっぱ音地(ondi)」牧住敏幸さんに聞く

2022年10月15日 18:10 by inaba_yoko
2022年10月15日 18:10 by inaba_yoko

「ただの空き地に名前をつけたことによって、それはもうただの空き地ではなく、みんなの想像力がわく自由な空間となりました」。建築家、牧住敏幸さんは、谷中の墓地沿いの高台にある自身の土地を「貸はらっぱ音地(ondi=おんぢ)」と名付けた。

牧住さんは、2006年当時谷中に住んでいたが、小さい場所でもいいから近くに土地を買いたいと、インターネットで検索していた。そしてある夜中にこの土地を見つけ、翌朝には申し込んでいた。「買わないと後悔する」、と直感したからだという。

ところが購入後も忙しく、時間が取れないため、その土地は放置された。その間に、大手の駐車場会社から、設計書付きで「駐車場にすると、月々4万お小遣いが入りますよ」という案内がしばしば届く。「この誘いに乗るのはなにか違う、自分の土地という感じがしなくなる」と思った。そこで、かねて「やりたい」と思っていた「地域に開かれ、みんなが自由に使える場所を作る」という思いを空き地に重ね、「貸はらっぱ」を思いついた。

たまたま「ご自由にどうぞ」と書かれて道端に置かれていた木の桶と板きれを見つけ、屋号を自分で書き、空き地に置いた。こうして生まれたのが「貸はらっぱ音地(ondi)」だ。「こういう趣味があってもいいかなと思って」

「『ひろば』はたくさんあるが、ほとんど自由がない。写真を撮ったら怒られる。ボール遊びはできない。そういうことにも反発があり、自由な場を作りたかった」と牧住さんは言う。

「貸はらっぱ」を作った2006年ごろ、日本ではタクティカル(戦略的)都市計画が進められていて、道路を広げるのにも十何年かかっていた。一方、アメリカのポートランドでは、道路で使われていない場所があると、区切って歩行者天国などとして活用、市民が喜ぶものであれば本格的に公園や歩行者天国に整備するという考え方で計画が進められていた。「試しにやってみる、という発想はその頃の日本では全くなかったんです」

牧住さんは、「自由に使える場所を作る動きを、実験的にまちを使いながら形にしていく流れを作る」ことを考えた。「ゲリラ的な感じですね。個人的にやれば縛りがない、でも個人で『貸はらっぱ』をやるには、土地がないと。そうなんですよ、犠牲がないと」と笑う。

「貸はらっぱ」を借りるのに書類はいらない。メール連絡でOKをもらう。使用後、料金1日2000円を牧住さんの自宅ポストに入れる。希望日が他団体とかち合ったら、シェアして使うことを薦められた。使用料2000円はシェア団体と割る。雨でイベントが中止になったら使用料は必要ない。びっくりだ。

青空ギャラリー、手作り品の販売、野点、紙芝居や青空落語会、不忍ブックストリートの一箱古本市や、芸工展のライブ表現の場になるなど、使われ方はさまざまだ。周りは住宅地だが協力的だという。

「自分たちが楽しんでいるのをたまたま通りかかる人が楽しむ場になっている。ここまでやってきたから続けていきたい」という。「建物を建てるかもしれないけど」。建物? 空き地ではなくなる?

「空き地のような建物です。建物の外側に階段がついていて、屋根に上がると、洗濯物を干したり、花火を見たり、井戸端のような。鍵なんかかかっていないんです」

この16年で、自由な場があちこちにできてきて、これまでの「貸はらっぱ」としての役割は一段落した。「まだよくわからないのだけど、家でもないし空き地でもないけど、自由に使えるような場所を作りたい」

「自宅兼パン屋さん、というような違う価値を持つ家がありますね。それぞれの家が、それぞれの価値を持ち、まちとかかわりを持てば、まちがおもしろくなる。空き地を持っている人は、違う価値を持つ空き地にする。まちに楽しんでもらえて、かつ、まちと一緒に楽しめる、自分を表現するための空き地にしたい」という。

通る人が外から見られるような建物を作りつつ、いろいろな世代の人がつながれる場所を作っていきたいそうだ。「イギリスでホームステイしていた時、おばあさんが住んでいて、いろんな人が来るんです。家族は全然来なくて、大学時代に下宿していた人とかが勝手に入って来て、おばあさんの世話をしてくれる」。おばあさんは自立して暮らしていた。「日本では施設に入るとお客さんになっちゃうんですよ。ホテルに泊まっているみたいに至れり尽くせり」。高齢でも、やれないことをやってもらいつつ、やりたいことをやっていれば、やりたいことが増えてくる。

「今のシェアハウスはほとんどが横のつながりじゃないですか。縦のつながりのシェアハウスを作り、いろんな人がつながっていける場所」。そういうものが出来たらおもしろいという。自分が「あったらいいな」と思うものは何かな、と考えていて、まだ漠然としているが、いろいろ構想中だという。(稲葉洋子)

貸はらっぱ音地(ondi)台東区谷中7-17-6 

FBページ:貸はらっぱ音地(ondi)

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