JIBUNマガジン

2021年02月号 vol.67

まちのいろんな人と共に。ilonaおやこの縁側

2021年02月17日 09:06 by inaba_yoko

 

荒川区町屋4丁目の路地の奥に「ilonaおやこの縁側」はある。一軒家の一階だ。

門をくぐると、正面に手作りの木の縁側が二つ、一つはイベントスペースとして使える大きなもので、飯能市の間伐材を利用して作った。同じ木材のテーブル、同じく木のベンチがテーブルを囲む。テーブルの下に七輪が置けるようになっている。

大きな縁側を挟んで、左手には木造の家屋、右手には広い畑が広がり、かわいい農機具やベンチが置かれている。

玄関から建物に入ると、右手に親子で遊べる部屋が二つ、子どもたちが遊ぶのを見守りながらおしゃべりも楽しめる大き目の部屋、奥は押入れを改造し、梯子段を取り付け、白雪姫の小人の部屋のようで、中に入って静かに絵本を読んだり読んでもらったり、おままごと遊びをしたりできる。

玄関左の部屋には大きなガラス張りの出窓があり、全体的に洋風のカフェのような内装だ。

「私がやりたかったことの一つに、子育てをがんばるお母さんを応援するために、非日常空間をつくり、親子で気兼ねなく来てリフレッシュしてもらいたい、ということがあったので」と、「ilonaおやこの縁側」の代表、白井美典(みのり)さんは話す。

                    (白井さん)

「ilonaおやこの縁側」は、16か所ある荒川区子育て交流サロンの一つで、2019年に開設された。平日0歳~3歳までの親子を中心に、自由に集う(現在は午前のみ7組程度に制限)。「ilona」の命名は、「いろんな人が集う」場所にしたいということ、「住所が町屋四丁目の16番7号」であることから。

白井さんは美大を卒業後、デザイン事務所を経て、キッズアートスクール「あとりえみみ」を立ち上げる。横浜で教室をしながら、八王子のショッピングモールでアートイベントの仕事も。ある日お客さんから講師になって、と依頼され、八王子でも教室を持つように。結婚を機に荒川区町屋に移り住んだため、片道2時間、海外旅行のキャリーバックに道具をつめて、妊娠中も毎週通った。

出産後は、胸に子ども、背中にリュック、腰にはポーチ、そしてキャリーバッグを引っ張りながら、パワフルに飛び回るのが定番となった。「しばらくは母に子どもを預けて仕事を続けたのですが、子どもが幼稚園に入園すると、幼稚園に行っている間に横浜まで行って帰ってくるということができなくなっちゃって」。やむなく9年間続けた教室はやめることにした。

「教室はやめたけど、私は、子どもたちの活動のことを考えるのが楽しくて」。「きっと前世では子ども関係で、なにかやっていたのだろうな、と思って」と白井さんは笑う。

白井さんの心の中には、「子どもたちの活動」という思いと同時に、外国や異文化にも興味があったという。

「海外旅行はよく行きましたが、言葉ではなくジェスチャーで乗り切っていました」。小さい時から当たり前に外国人と一緒に過ごしていれば、言葉は通じなくても、助け合える心を育てることができると感じ、子どもたちにそんなふうに育ってほしいいと思ったという。

「外国語を学習という入口からではなく、外国人がそこにいる環境を作りたい」と、白井さんは外国人を中心に、お互いを知り支え合う新たな活動に着手。それが「多言語パーク」だ。自らも、多言語が学べる教室にも通っていたが、ある日気づく。

「あれ?荒川区には外国人がいっぱいいるぞ、自分でできちゃうかもな」と。2015年のことだ。

思い立って区役所の文化交流推進課を訪れて説明していたら、なんと、「そういう人を待ってたんです!」と。「区でそういうことやりたいのだけど、なかなか実現できなくて、活動する人がきたら応援したいと思っていた」とのことだ。「ちょうど、求められていた内容だったみたいで、嬉しくなっちゃって」

費用はすべて自腹で、と当初思ったが、場所代など自分で出し続けたらいつか続かなくなる日が来ると思い、助成金はないかと文化交流推進課に相談。しかし、次年度の予算は組まれた後で出る見込みはなかった。生涯学習課にあるかもしれないと勧められ、行ってみると「該当する助成金はありません」と、すぐ断られた。

社会福祉協議会に行ってみたらというので、行ってみたら、「ふれあい粋・活(いきいき)サロン」という枠組みで、会場費免除で公共施設を貸してくれることとなり一件落着。

「時代の流れに沿っていたのかもしれませんが、すぐあきらめないで、どうにかしようと動き続けたことが功を奏した」と、白井さんは振り返る。今でも、学生たちに話す機会があると「ここでは完全にダメだとなっても、どこかで受け入れてくれるところがあるかもしれないから、諦めず想いを伝え続ける事が大事だ」と話すという。

その後も、社協から区の生涯学習課へ、「こういうことをやろうとしている人がいる」という話が伝わり、「子ミュニテイ事業の助成金がある、内容もぴったり」と、3年間限定で出してもらえることになった。その後は社協でお世話になっている。

「多言語パーク」として4年間、町屋の公共施設で活動した。外国人だけでなく、高齢者や、スペシャルニーズのある方など、様々な人が特別な存在ではなく、当たり前に一緒にいる中で、人と人が認め合い、尊重しあう環境を作っていける場をめざした。白井さんは、「3歳と1歳前の子を抱えながら準備に奮闘する日々が続き、なぜ始めてしまったかと泣きそうになる日もありましたが、思いがあるというのは強い。やりたいことだから乗り越えられた」という。その姿に周りの人も手伝ってくれるようになった。

活動していくうちに常設の場が欲しいなと思うようになる。

理由のひとつは、小さな子連れの親子にとって夕方決まった時間・隣町から定期的に通うことは簡単ではなく、来なくなってしまう。来たいときに無理せず来られる場所が欲しい。二つ目は、外国人のママたちが働こうとするとき、子どもを保育園に預けようと思っても、よくわからなくて、手続きのタイミングを逃していたり、実家が海外のため気軽に預けられる場が無かったり。日本での働き方を子連れでいつでも学べる場所を作りたいから。三つ目は、核家族で子育てする孤独と辛さを経験したので、地域で子育てを応援する場を作りたい。人のためになる活動を続けるために活動を仕事にしたいという思いからだ。

ちょうど白井さんの下の息子が幼稚園に行き始めたころで、自分は働く時間ができ、働き始めると今の活動ができなくなると思ったからだ。

社協に相談したところ、子育て交流サロン(地域子育て支援拠点事業)の開設を勧められた。そして子育て交流サロン「ilonaおやこの縁側」を始めることになった。

現在は、「ilonaおやこの縁側」の活動時間外に、同じ場所を使って「多言語パーク」をやっている。「IroToriDori multicolored neighborhood」(通称:いろとりどり)という運営団体を立ち上げ、そのもとに、「多言語パーク」と「ilonaおやこの縁側」が並ぶシステムだ。この先も、新しい活動を起こすとき、さらに並べていけばよい。

白井さんは、「多言語パーク」を立ち上げるとき、区の文化交流推進課から、「もう1人パートナーがいた方がいいですよ」と言われたという。そのパートナーが氏家景子さんだ。当時、白井さんは、活動を広めようと、チラシを持ち歩いていた。そんな折、公共施設のプレイルームで氏家さん親子と出会う。息子の発達について共通点もあり、「こういうのを始めようと思うのだけれど、良かったら」と聞くと、「実は私もこういう活動に興味があるんだけど」と返ってきた。

(左が氏家さん)

氏家さんは言う。「以前からボランティアに興味があって、学生時代にはベトナムの子どもたちの支援に関わっていた。子育て中に感じた孤独から、外国から来たママたちは、もっと寂しい思いをしているのではないか、と気になっていたので、多言語パークに興味を持った」という。白井さんは、「氏家さんは、パートナーとして参加するつもりは、まったくなかったと思うのですが、手伝ってもらううちに、一番近い存在になっていった」という。今では、氏家さんは副代表を務めながら、収穫体験など畑の活動を企画し、凸凹の子と一緒に育つ会『ひだまり』の代表も務める。

「ilonaおやこの縁側」には、いろいろなスタッフが集まり、それが特色だそうだ。子育て中のママ、シニアボランティア、外国人ママボランティアがいて、活動のそれぞれの気持ちがわかる当事者でもある。「同じ方向を向いている信頼できる人をスカウトしました」。皆、ボランティア活動をしたり幼稚園で役員を務めたり、思いのある人ばかりだという。イベントはスタッフが自発的に取り組めるよう、得意分野を活かしたものを自分で企画してもらう。得意分野でもあり、我が子にこんなことをさせたかったという思いも上乗せされるので、面白いイベントに仕上がるという。

活動のひろがりから、この先、やってみたいことも見えてきているそうだ。「子育て交流サロンは比較的自由度の高い事業で、私たちのカラーを出すことができています」。活動の中で知った、農業、林業と繋がりを深め応援する活動をしたいということ、そして、外国人のなんでも相談スポットを開設すること。そして子どもの起業体験。

新しい活動も、スタッフ皆で意欲的に取り組み、地域のいろいろな人を巻き込み繋がりを広げていきたいという。今通ってきている、0~3歳の子どもたちも、「ilonaおやこの縁側」を卒業しても、出会った人たちと、ずっと繋がりを持てるといいなと思っている。(稲葉洋子)

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