JIBUNマガジン 文京区

2020年1月号 vol.54

演じることで心をひらく/専門職による演劇ワークショップに参加してみた

2020年01月23日 18:15 by Takako-Oikawa
2020年01月23日 18:15 by Takako-Oikawa

 「弓矢太郎。はっはっは」。腹の底から声を出してみる。なんだか声音もいつもと違う自分のように思える。

 心理の専門家による演劇ワークショップが文京区内で開かれていると聞き、参加してみた。チラシに「気持ちを発散させたいという方」という一文があったのに惹かれた。この日の会場は白山交流館。月2回、区内の公共施設で開かれており、白山交流館が多いという。

 新年早々にもかかわらず、スタッフ含め12人が参加した。まずは自己紹介。本名と、呼ばれたい名前、今年の抱負を1分で語る。「この場ではいつもの自分と違う自分でいいです」との言葉に誘われ、かつて実家で飼っていたネコの名前を呼び名にしてみた。

 初対面の人ばかりだったが、懐かしいフルーツバスケットのようなゲームや、2人1組で名乗りながら握手するとか、マッサージしあうなどのウォームアップで緊張感や関係性がほぐれた。

 次はリラクゼーションと発声。寝転がってまずは呼吸に意識を向け、おなかを動かして腹式呼吸をする。身体がほぐれていく。「あー」とか「おー」とか長く声を出してみると、心地よく出せる声は低めだなと気づいた。そういえば昔、合唱の授業ではアルトパートだったなと思い出す。

 「拙者親方と申すは、お立合の中に、御存じのお方もござりましょうが・・・」。活舌練習にと「外郎(ういろう)売り」という紙を渡され、みんなで唱える。発声練習などの定番らしいが、知らなかった。そもそも演劇というものに、縁がない。

 いよいよ演技体験だ。この日は狂言をもとにした「弓矢太郎」という作品を練習した。2チームに分かれ、あるじ、冠者と客3人の役を演じた。腹式呼吸、腹式呼吸、と心の中で唱えながら声を出すが、せりふに気を取られ、「演技」どころではなかった。弓矢太郎が登場する前の場面をいかに密談っぽくみせるか、みんなで考えて練習し、発表。相手チームの演技を見るのも勉強になった。なんだか、身体も心もすっきりした気がする。

 ワークショップは、一般社団法人ひとつながりが運営・実施している活動「演劇コミュニティ」の一環だ。「人とつながる」「自分とつながる」を掲げ、演劇を通した地域づくりをめざしている。中心となっている臨床心理士の野村嘉之さんは、「演劇って、自分について気づけるんです。人に伝わりやすい声で伝え、表現するのは気持ちがいい。演劇という手段で、地域で困っている人を勇気づけられたら」と話す。ほかに保育士や精神保健福祉士がスタッフに加わる。

 野村さん自身、学生時代に演劇をやって、いろんなことに気づかされたという。舞台に立って人に伝えるには、普段何気なくやっている自分のささいな動作の一つひとつに意識を向けることから始めなければならなかった。そこで自分のできる、できない、に気づいたという。「運動や音楽には得手不得手が表れてしまうが、演劇は繰り返せばうまくなる。どんな人も舞台に立てば気持ちがいいし自信もつく」。最大のネックは「恥ずかしさ」だが、「そこは支援の専門職なので、ウォームアップと発声など、心をひらく手段をあれこれ持っています」

 臨床心理士として文京区内で仕事をしていた関係で、ひきこもりの当事者や親を対象にした演劇ワークショップを14年前に始めた。安心できる場をつくり、そこで演技をすることで表現し、発散でき、社会へつなげるねらいだった。演劇公演も開催し、出演者の8割以上は社会復帰につながったという。「公演するには、体調管理、広報などさまざまな準備があり、自ら行動せざるを得ない。それができると、守られる存在から踏み出す一歩につながるのです」と野村さん。

 介護者や保育者にも有効だとわかり、2019年からは対象者を絞らず活動をしている。子育てひろばで子育て中の母親たちを対象にやったこともある。「○○君のママ、ではなく、一人の個人としてかかわれたのがよかったという感想があった。非日常感を味わってもらえたら」

 地域や学校、職場などで対象者や目的に応じて出張ワークショップも引き受けるという。6月には久しぶりの公演を企画している。文京区内の演劇ワークショップは基本第1日曜日午後と第3土曜日夜に開催し、参加費1500円。日時や場所の詳細はサイトで。次回は2月2日(日)に開催予定。申し込み、問い合わせはサイトのフォームから。(敬)

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