JIBUNマガジン

2020年08月号 vol.61

コロナ禍の夏、ようやく開催に漕ぎつけたコンサート「とりのうた」

2020年08月16日 21:33 by inaba_yoko

この作品は絶対取り組みたい!「子ども劇場首都圏ツアー2020」の作品として提案された「とりのうた~歌とピアノ+砂絵ライブ~」。ボイスパフォーマーの中ムラサトコさんが、ループステーションという声の多重録音装置を通して、歌声を反復させていく。コンサートのメイン「とりのうた」では綺麗なとりの歌声が反復される。中ムラさんは、ループステーションの使い手としての評価はプロの中でもトップクラスだという。声は綺麗だが力強くかつ柔らかい。聴いている人たちを元気にしていることは間違いなし、だと思う。

歌と同時進行でサンドアートパフォーマーの田村祐子さんが描く砂絵が、舞台中央のスクリーンに映し出される。2013年独学で習得したという砂絵。ライブパフォーマンスで、田村さんの手元の砂絵ボックスからスクリーンに送られるライブの砂絵は、ひとときもとどまらず、描いては消える、はかなく美しく、愛しい物語の世界だ。観客は田村さんの描く砂絵の繊細な世界に魅了されていると、もう少し見たいと思っても消える。だが、すぐに次は何が描かれるのかわくわくするのである。お二人とも関東に住んでいたが、それぞれ愛媛県松山市に引っ越してそこで出会って意気投合したという。

「子ども劇場首都圏ツアー2020」に手を挙げて文京区でやろうと決めたのは、2018年の夏。舞台芸術に関しては、少なくとも1年以上前に作品や会場が決まる。まずは会場探しから始まった。社会貢献として地域活動支援事業をしている文化シヤッター株式会社のBXホールを借りることが決まったのは2019年1月。

子ども劇場という会は全国各地にあり、子どもを囲み地域文化を豊かにしていこうとそれぞれの地域で活動をしていて、その一つが、年4回ほどの舞台芸術のコーディネート。当日の運営だけでなく、大人も子どもも一緒に、その日を迎えるまでのいろいろなイベントを企画する。自由になんでも意見を言える場をめざして、学校とはまた違った空気だ。

準備は2019年秋から本格的に動き始めた。まちの人が「とりのうた」のコンサートに行ってみたいと思えるような、会場やロビーの空間作り、当日までのさまざまなイベント、地域の中に周知するための作戦、ホールとの打ち合わせ、ツアーに参加する他の団体との打ち合わせなどを進めていく。開演時間、参加料金も決まり、いざチラシ制作の段階となり…

コロナ禍がやってきた。

どうなるのか気を揉んでいるうちに状況はどんどん酷くなり、緊急事態宣言が発令され、イベントなどはほとんどできない状態に。2020年5月8日に本番を迎えるはずだった「とりのうた」もできなくなった。なんだ、三密って?social distance?聞きなれない言葉が次々と出てくる中、「中止にするか…延期にするか」みんなで真剣に話し合った。考えることをやめたら再スタートは難しい。中止にはせず、諦めないで実施をさぐろうという結論になった。ツアーのほかの団体とも励ましあいながら進めた。緊急事態宣言後も演劇音楽はなかなか解禁にならない。

自粛生活で、外に出られない子どもたちがストレスを貯めていることを考えると、大人としてできることはやっていこうと、ホールが貸し出しを始めるのを心待ちにしながら、家でできるイベントを探った。家で描いたとりの絵を、SNSに投稿しあう「とりのうたアート」や、オンラインで画面越しだがお互いの顔を見ながら描いた、「とりの絵手紙」の取組だ。

会場探しは、紆余曲折。「とりのうた」の実施日は、延期に延期を重ね、8月10日になった。文京区内の地域のホールは、7月10日にならないと受付は始まらない。他の区より遅いのはなぜ? それでも区内でやりたい。受付開始を待ち、ホール事務所に申し込みに行ったところ…なんと!文京区の施設は、歌の公演はできないという。申請用紙すら受け付けてもらえない。もう公演は実現しないのか。

荒川区のホールはとりあえず仮予約してあったものの、文京区で歌がだめなら、荒川区もだめかも。おそるおそる聞きに行ってみたら、歌は諸注意を守ればOKとわかり、サンパール荒川の小ホールでの実施が決まる。よかった~。他区ではマスクして歌うという決まりのホールもあると聞いた。マスクをしては歌いたくないだろうな。マスク越しに聞くのも悲しい。

すでに3週間前。ばたばたとフライヤーを作ったり、舞台さんと打ち合わせをしたり。舞台さんはホールで舞台公演が行われるときプロの裏方として照明や音響や舞台作りを担い、公演を進めてくれる舞台の強い味方だ。「こんな時期に、舞台公演?」と言われてしまうことが多い日常で、出演者、主催者の強い味方、つい気おくれしそうになるが、舞台さんとの打ち合わせで背中を押される。

座席は、通常は300席、今は密を避けるため72席しか使えない。こんな時期に観客は動員できるのか…心配をよそに、席は予約で満席になった。歌のイベントが渇望されているように思った。ゆとりを作っておかないと何が起こるかわからない、結構危険な状況だったが、スタッフの一人の、「こんなことなら大ホールを借りるんだった!」のひとことで「どんとこい!」モードに切り替わる。

さて、当日、参加率は100%。子どもたちが作った色とりどりの作品が目いっぱいロビーに並ぶ。地域のデザイナー、kuukiさんのデザイン、製作による「とりの羽根」フォトスポットも設えられて、子どもたちは思い思いのポーズで嬉しそうにシャッターを切ってもらっていた。

いつもはカーテンコールがあるのだが、密になるので、子どもたちが作ったプレゼントは、中ムラさん田村さんが到着する前に楽屋に置かれることになり、ちょっと残念。

舞台はというと、出演者と一体になって、場の空気の濃さがびんびん感じられた。幼児、小学生、中学生、高校生、青年、大人と、あらゆる年代層が集っていたが、みな引き込まれ楽しんでいた。ライブでのコンサートを通してアーティストと出会い、また観客も直に集って楽しさを分かち合う場は、何物にも変えがたいと思った。

終演後、出演者、中ムラサトコさんと田村祐子さんの感想や思いを伺った。「ロビーに、『とりになれる写真撮影コーナー』があったり、素敵なとりの衣装を着た女の子がいたり、感染対策がされていながらも、楽しく心躍る雰囲気でした。観客のみなさん、主催のみなさんと、同じ場所で笑い合い時間を共有できて嬉しかった」と田村さん。中ムラさんは、「ソーシャルディスタンスという、少し前ならまったく知らなかった言葉でしたが、今は人との距離を保つということに神経を使うようになってしまいました。間隔をあけた椅子にみんなが座ってジッとしている風景。最初は緊張感漂う雰囲気でしたが、公演が始まると、どんどん心の距離が縮まっていくのがわかりました」という。

コロナ禍について田村さんは、「地球環境に意識が向くようになりました。子どもの頃、沢山絵を描き大量の紙を使うたび、山で木が切り倒されているイメージが湧き苦しかったです。絵を描くために誰かが作った絵の具やキャンバスを買うことも疑問がありました。今繰り返し使える砂を使うことは自分にとって大事なことのひとつですが、まだ別の方法もあると感じています。どういう手段で表現するのかを見つめ直す機会にしたい」という。

中ムラさんは、「3月から全てのコンサートが中止になり、配信などを通じたネット上での活動が増えました。映像を通じて最大の工夫や努力をしていますが、生の舞台は別物、演者として私自身が耳や目だけではなく、肌で感じることは、素晴らしいことだと改めて実感しています」また、「人は繋がっていること、感じたことを分かち合えることで、生きる元気が湧いてきます。状況はまだまだわかりませんが、肌で感じ合える繋がりを大切にしながら、表現したり創造し続けていきたい」と語った。(文:稲葉洋子、写真:eikichi)

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