JIBUNマガジン

2019年09月号 vol.50

大塚と名前がつくのに大塚にはない四谷大塚の謎

2019年09月06日 08:29 by Takako-Oikawa

 突然ですが、問題です。次の単語に共通することは何でしょう。東京デイズニーランド、東京ドイツ村、東京国際大学、東京歯科大学。答えはいずれも「東京」とは名前がついているものの、東京には存在していないのです。

 今回、記事に取り上げることになった中学受験指導塾として知られる「四谷大塚」も実は四谷にも大塚にも存在していないのです。そこで、四谷と大塚に存在しないにもかかわらず、なぜこの屋号を名乗っているのか。さらに、元号が令和に代わり、初の中学受験シーズンまで半年余りに迫った昨今の中学受験事情を聞くべく、四谷大塚本社広報部(本社・中野)にお話をうかがいました。

四谷大塚の本社がある中野校舎(東京都中野区、四谷大塚提供)

難関中学受験塾の老舗

 そもそも、四谷大塚とは何? という読者もいるはずです。まずは四谷大塚について簡単に紹介すると、1954年に創業、今年で66年目の中学受験専門塾の老舗ともいえる存在です。1都3県に28の校舎を展開しています。御三家(男子であれば開成、麻布、武蔵。女子であれば、桜蔭、女子学院、雙葉)を中心とした最難関と呼ばれ私立中学への合格実績をあげ、受験塾のライバル関係にあるのが、SAPIX(本社・渋谷区)、早稲田アカデミー(本社・豊島区)、日能研(本社・横浜市)などといったところになります。「大塚に四谷大塚があったのは事実ですが、当時のことを知る人はもういないです」。取材のお願いをしたところ、広報部からはこのような回答がありました。

昭和40年頃(?)の中野校舎(四谷大塚提供)

 広報部にお邪魔をしたところ、四谷大塚の創業者である鈴木仁治氏の回顧録を用意してくれました。そこにはこう書かれています。

 「私を取り巻く人たちのお陰で駿台予備校の四谷校を日曜日だけ借りることが出来た。(中略)日曜テストの会場として専修大学の講堂を使っていたが、毎日曜使えないのでさらに会場を求めた。幸いも大塚予備校を借用(中略)四谷大塚進学教室という名称は、四谷と大塚の駅名を取って名付けたものである。あまりに名称が長いではないか、と言われるけれども、この名称が知れ渡って有名になってしまったので、今でもこの名称を使用している」。

鈴木氏の回顧録(四谷大塚提供)

日曜テストを予備校の空き教室で

 創業者の鈴木氏は元々小学校の教諭で、勤務時間後に自分の子どもと近所の生徒20人ほどに有名中学の受験指導をしていたそうです。自宅で教えるスタイルから日曜日に会場を借りて行うテストを思いついたようです。その際、日曜日だけ借りられる大学の講堂や予備校の空き教室を貸してもらう一環で、大塚にあった予備校を借りたというのが大塚に拠点を持ったルーツのようでした。

昭和30年頃(?)の日曜教室(四谷大塚提供)

 担当者の方もルーツに興味を持っていただき、調べていただいたところ四谷と大塚に会場を借りた時期にタイムラグがあったようだということも判明しました。四谷で日曜テストを開始したのが昭和29年ごろ、大塚では昭和31年ごろに始めているようだが既に「四谷大塚」とはその時期に名乗っていて、経緯などは回顧録に加えて諸説あり、真偽のほどは知るすべもない状況にありました。

 これまでにメデイアから今回のテーマに関する取材はなかったそうで「昔、親御さんが四谷大塚に通われていた方が、社名の由来を聞かれるくらいです。とは言っても年に1-2回程度あるかといった具合です」。また「平均年齢が30代半ばの社員約200人からも社名に関する由来について、疑問を持つ人はいないです。むしろ、本社のある中野が創業の地だと思っている人もいるのではないでしょうか」

テスト風景(四谷大塚提供)

中学受験率が高い文京区

 半年後に迫った入試の動向についても聞いてみました。東京都内の私立中学の入試は概ね年明けすぐの2月1日から3日に集中します。年々受験人口は増える傾向にあるとのことです。「首都圏(1都3県)という前提ですが、小学校6年生の児童数は概ね約30万人で推移していて、このうち2018年は約4万8500人、2019年には5万500人の6年生が受験をしたと推定しています。これは首都圏の6年生のうち17.2%にのぼります。ちなみに、中学受験率の高い区は文京区の47.6%、豊島区が33.3%と、これは23区の平均が25%というところから鑑みても高水準であると言えます」。2020年の中学入試では、一部のキリスト教系の学校の受験日が日曜日と重なるために、入試日程をずらす学校もあるので、注意が必要とのことでした。

 受験者の増えた追い風になった理由として考えられるのが2002年から11年まで続いた、いわゆる「ゆとり教育」による保護者の不安が表面化したころも考えられるようです。これに加えて、さらなる加熱要因に拍車をかけるのが2021年から開始が予定されている「大学入学共通テスト」が挙げられます。「多くの私立中学・高校では既にこのテストへの、保護者にとっては安心材料に働いています。中学から私立で対策を講じてもらいつつ、大学進学に臨ませたいという心理が働いているのでは」と説明していただきました。とはいえ、気になるのが塾への通学のお値段。小4から6年生までの3年間で約200万、さらに私立中学に進学すれば年間約100万は用意しておかなくてはならないのが現実です。家族の財布事情も塾に通わせることで大きく変化もあるでしょうから、そこのところは家族会議をしっかり持たれるのもいいかもしれません。

授業風景(四谷大塚提供)

ゆかりの地は今・・・

 かつて大塚予備校が入っていたとされるのが、大塚駅前にそびえたっていた「大塚ビル」。1937年5月に建築家・石本喜久治氏によって設計をされました。地下1階、地上6階立てのモダンな建物には、百貨店の白木屋大塚分店が入るなど人でごった返したそう です。ちなみに石本氏は大塚ビル以外にも広島市民球場などの建築でも知られています。このビルには、マクドナルドや書店、ドラッグストアーが入るなどしていましたが、2017年から解体が始まり、現在では当時の名残を残すものは見た目にはありません。

 四谷大塚が大塚に戻る可能性について聞いてみたところ「そのような計画は全くないです」とのこと。

 時代の流れとともに、大塚予備校や大塚ビルの当時を知らない人は、どんどんと増えていくことになるでしょう。アインシュタインはこんな言葉を残しています。「過去から学び、今日のために生き、未来に対して希望をもつ」と。ビルのあった工事現場で立ち止まり、ふと過去の歴史と未来を感じてみるのもいいかもしれません。(M.W)

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