JIBUNマガジン

2016年1月号 vol.6

【新春特集②】生駒の自然の中で子どもの感性をひらく/いこま山のようちえん

2016年01月05日 22:23 by Takako-Oikawa
 
 強い風が吹いた。空から落ち葉のふぶきが舞い降りる。「わーい、すごい」。子どもたちが歓声を上げる。自由保育を掲げる奈良県生駒市の「いこま山のようちえん」のフィールドは、寺や神社が多い信仰の山、生駒山だ。園舎はなく、火曜、木曜、金曜の9時20分~14時20分まで、雨の日も風の日も、カッパや傘やタープを活用しながら、弁当持参の預かり保育を実施。月曜日は親子参加で山や棚田で活動している。

 

 「さかな、釣れるやろか」。長い竹にひもをつけて、3~5歳の子どもたちがため池にやってきた。夏にここで釣りをしていた人がいたことを思い出し、竹やぶから竹を拾ってきて、お弁当の卵焼きやスルメをつけて試してみようというのだ。
 

 「ここ、野イチゴあるで」と、山のようちえん代表の紀村典子(きむらのりこ)さんが声をかけると、すぐに取って食べる子もいれば、身を引く子もいる。「みんな同じでなくていい。子どもたちだってノリノリのときもあればどよーんとしているときだってある。大人が求める子ども像でなく、ありのままでいい」と紀村さん。「何をしたいか、自分で発想してやってみる。魚が釣れるかどうかわからないけど、卵焼きあかんかったで、という失敗も経験のひとつ」
 
 

 紀村さんは元幼稚園教諭。自ら子育てもする中で、作文や体操を「やらせる」保育には違和感があった。末っ子が2歳だった2008年、ママ友と週1回山に親子で集まって親子クラブを始めた。そのうち預かりもするようになり、試行錯誤の末、カリキュラムを設定せず、子どもが遊びを見つけ、想像し、ふくらませていく過程を、有資格者を含むスタッフが見守りながら保育する現在の形に落ち着いたという。年間180日の保育日数は、普通の幼稚園とほぼ同じだ。入園・卒園式も運動会も、保護者懇談会も育児相談も、山の中でやる。
 

 生駒市は大阪から電車で約20分のベッドタウン。山のようちえんに大阪から通う子もいる。紀村さんは「はじめは家の近くだからと生駒山で始めたけど、ここは山が神様のようなものでパワーがあるから、引き寄せられたのかな」と話す。「動物も人間も自然、だと思う。自分も自然の一部。子どもの発想や感性はもともと豊かだし、開放されているので、それを大人が閉じさせないようにしたい」
 

 子どもには感じる力がある。土の色も、葉っぱの色も、ただの茶色や緑ではない。大人は1色しか発想しなくても、子どもはたくさんの絵の具を持っている。落ち葉のふぶき、野イチゴの味。たくさんの自然体験が、成長していくうえでの「根っこ」になると、紀村さんは考えている。
 
 

 2013年にNPO法人「いこま山の子会」となった。市が管理している生駒山の宝山寺の土地を、許可証をもらって使わせてもらっているほか、地元自治会やいこま棚田クラブ、いこま里山クラブといった団体とも連携。0~2歳児の親子が山や棚田に入る機会も週1回設けている。だが、3歳になって山のようちえんに入園する子はそう多くない。主に保育料が収入源なので運営は厳しい。
 全国の「森のようちえん」をはじめとする自由保育・自然保育実施団体も似たような状況だ。長野県や鳥取県が全国に先駆けて認定制度を設けて補助金を出しており、紀村さんは「三重や岐阜も動きがあると聞いている。少しずつでも広がって親の負担が軽くなる方向にいってもらえれば」と話している。
(2015年11月取材)

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