JIBUNマガジン 文京区

2023年09月号 vol.98

芝居小屋がたくさんあるまち浅草に、小さな演劇スペース「あさくさ劇亭」を訪ねる

2023年09月15日 19:53 by inaba_yoko
2023年09月15日 19:53 by inaba_yoko

アートスペース/あさくさ劇亭」は東京メトロ銀座線「田原町駅」近くにある。劇亭入口に向かって右手ひとつ先の道に、東本願寺のどっしりした建物が見える。「合羽橋道具街」からも近い。浅草やその周りの町には、江戸時代から大きな芝居小屋があり、江戸四座といわれる猿若座(堺町※現日本橋)、市村座(葺屋町 ※現人形町)、森田座(木挽町 ※現銀座)、山村座(木挽町)や、人形結城座も葺屋町にあった。

江戸時代、庶民に愛された歌舞伎や人形浄瑠璃は、題材が心中や情死で、風紀が乱れるという理由で、幕府は、「天保の改革」により、江戸城の近くに芝居小屋を建てることを制限し、江戸城から少し離れた浅草に、強制的に芝居小屋を移転させた。結果として浅草は「芝居の町」となった。歌舞伎俳優中村勘三郎が浅草に「平成中村座」を建てたのも記憶に新しいが、今も浅草には木馬館大衆劇場や浅草東洋館、木馬亭、浅草演芸ホールなどホールが数多くある。芥川比呂志が立ち上げた演劇集団円も一時、田原町にあった。

「あさくさ劇亭」は、経営する遠藤幸子さんのご自宅のスペースである。浅草だから、先祖代々小屋の運営をしてきたのかと思ったら、「そういう歴史や背景とはあまり関係ないです」と幸子さんは笑いながら答えた。

「ずっとここ浅草で育ちましたが、両親は芝居に関係なく、サラリーマン家庭でした」。その頃、遠藤さんは役者になりたかったにもかかわらず、もっぱら舞台照明で芝居とかかわっていた。結婚後、芝居から遠ざかってしまったが、時を経て、どっぷり芝居と付き合うことになる。それが「劇亭」の設立だった。「両親が高齢になり、父が亡くなり認知症の母だけになって、1人にしておけなかったのです。その頃私は柏にすんでいて、そちらに母を引き取ろうと思ったら、母が浅草を離れたくないって。じゃ、私たちが浅草に戻るということで帰ってきました」。幸子さんは明るく経緯を話していく。

  

浅草の家は戻るにあたって建て直すことになったが、「介護生活に入るとなかなか芝居を見に行くこともできなくなる」と幸子さんは思った。子ども2人は就職して家を出ているので、そんなに部屋数は必要ない。「そうだ。照明の師匠から貰った照明機材もあるし、1階をフリースペースにすれば、劇団が公演をしてくれるかもしれない」と思いついたという。そうして「あさくさ劇亭」は誕生する。

広さは13坪弱のスペースだが、ピアノがあり、音響照明の設置がすごい。「音響照明の設備、平台も箱馬も、全部主人の手づくりです」と幸子さん。スペースの広さを稼ぐために、照明音響のブースは座席の上方の中2階のように設えた小さな張り出し板に梯子で登って操作するようになっている。楽屋はプライベートの部屋と共用だ。使える空間は無駄なく目いっぱい使って演技スペースと客席が生み出され、演技スペースには6~7人は乗れるし、客席は40席ほど用意できる。

夫の邦夫さんは、上野に「上野小劇場」という演劇スペースを持っている。演劇ワークショップを主宰していて、年に2度、ワークショップ参加者のうち希望者で演劇公演をしている。その時の装置・道具類もすべて邦夫さんが手作りしているという。「『劇亭』は、主人がいないと回らないのです。電気系統は私はよくわからなくて、音響は特に弱くて」と幸子さんは笑う。「2010年に家は建ったのですが、フリースペースの方は1年かけて、内装を主人が一人でコツコツと手掛けて、オープンしたのは2011年の1月でした」

今年で13年目になる。「当初の思いは演劇公演だったのですが、友達がジャズをやっていて、毎月ジャズライブをやって、最初は芝居はなかったですね」。これまでに、コントのだるま食堂、カンカラ三線の岡大介、マイムの山本光洋、歌とピアノの中ムラサトコなど数多くの出演があった。落語や浪曲も。「芸能では、岡大介さんと知り合って、どんどん広がっていき、『劇亭』の存在を知ってもらい使っていただきました」。また、「台東区の『したまち演劇祭』のボランティアやいろいろな場で知り合った方と共同企画もやっています」。一昨年が10周年で、記念企画を出していたが、コロナ禍で中止や延期になり、昨年、「10周年プラス1」企画の形で実施したという。「徐々に使ってくださる方が出てきて、当初の思惑、介護しながら、自分の家にいながら舞台がみられることが実現してよかったと思っています」 

9月~12月はいろいろな劇団公演が入っているので、幸子さんは楽しみにしている。幸子さんの口からは、「観る」のが楽しみという言葉が常に多く出て来て、「あさくさ劇亭」の原点は、演劇や音楽や芸能を自らが楽しむというところから作られていると実感した。その原点があるからこそ、続けていけるのだろう。(稲葉洋子)

アートスペース あさくさ劇亭(台東区西浅草2-8-2)電話:03-6231-6047

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