JIBUNマガジン 文京区

2023年05月号 vol.94

小石川植物園の坂は「日本植物学の父」も歩いた/柴田記念館にてミニ企画展「牧野富太郎と小石川植物園」開催中

2023年05月17日 22:26 by inaba_yoko
2023年05月17日 22:26 by inaba_yoko

「正門からここまで坂道を上がっていらしたでしょう。牧野富太郎も、あの坂を上がって植物学教室に通っていたと思います」。2023年春のNHKの朝ドラ「らんまん」は、日本の植物学の父、牧野富太郎をモデルにしている。「この坂が・・・」と、感慨深くなった。

小石川植物園の正式名称は東京大学大学院理学系研究科附属植物園。牧野の研究生活ゆかりの場所でもあることから、園内の柴田記念館において、ミニ企画展が開催されている。特任専門員の鹿野研史さんと、特任専門職員の竹上美菜子さんが、資料の説明にあたってくれた。

牧野富太郎(1862-1957)は高知県で生まれ、幼い頃から植物に興味・関心を持っていたといわれる。1884年に2度目の上京の折、東京大学理学部教授で植物学を担当していた矢田部良吉に会い、植物の知識の深さから、研究室への出入りを許される。1885年植物学教室は理学部とともに神田一ツ橋から本郷へ移ったが、手狭になり、1897年小石川植物園に移転し、1934年に本郷に戻るまでの37年間小石川植物園の中にあった。

ミニ企画展が開かれている柴田記念館は、もともと植物学教室があったところ。教室といっても一部屋ではなく、一つの学校のような建物群となっていたという。今も残っているのは記念館だけだ。館内では、牧野関係の資料と日本の近代植物学の黎明期における研究者たちの功績を展示している。

「牧野富太郎だけに光をあてているのではなく、その頃、多くの研究者が植物学教室で研究していて、現在に続く研究の下地をここに作ったことを示す資料の展示です」と竹上さんは言う。「ぜひ東京大学の長年の研究成果を知ってほしいです」と鹿野さんも力強く言う。「牧野富太郎が多くの業績を上げることができたのも、標本庫をはじめ恵まれた植物学教室の環境があったからなのです」

展示では、牧野富太郎の主な功績として、「植物の命名」「植物画」「教育普及」の3つを取り上げている。

幕末まで、海外の研究者が日本の植物を外国に持ち帰って研究し、学名をつけていた。そこで、日本独自に使われていた植物の呼び名である「和名」と、海外の「学名」を対応させる必要があり、植物学教室ではその研究が行われていた。牧野は「生涯で約40万点に及ぶ植物を収集し、約1,500種類の植物を命名した」といわれる。そのほとんどは、小石川植物園にいたときに発表したものだという。

「新しい植物が認められるには、国際的なルールというものがあり、発見したら論文を書き、学術雑誌に発表される必要があります」と竹上さんはいう。「論文には、発見した新種について記載するために用いた標本を記録します。これがタイプ標本と呼ばれるもので、その種の分類の基準となる重要な標本なので、どこの標本庫でも大切に保管しています」

1889年、牧野富太郎が27歳の時、大久保三郎との共著『植物学雑誌』に新種「ヤマトグサ」を発表した。これは日本人の手だけで初めて命名した植物として知られている。展示ケースでは、タイプ標本の画像と論文を記載した雑誌が展示されている。

植物標本を作るには、「植物をまず採集して、板などに挟み重しをして押し葉にしたものを乾燥させ、台紙に貼るテープで止めて保管します。重要なのはその植物の情報をラベルに記録して台紙に付けておくことです。今でも、牧野先生の時代とほぼ変わらない方法で標本にしています」と、東京大学植物標本室で仕事をしてきた鹿野さんが解説する。「標本を挟む紙をジーナスカバーと呼びます。中にはいろいろな場所から集められた標本が挟まれています。特別に赤い縁どりのカバーで挟まれているのがタイプ標本です。標本によっては別の種類であると後からわかるかもしれない。産地や気候によって植物の形も変わってきます。いろいろな場所から標本を採集し保管することはとても大事です」

標本を管理するハーバリウムは日本各地にあるが、小石川植物園のハーバリウムは、恐らく日本で一番古く、80万点の標本が管理されているという。

牧野富太郎の功績の2つ目、植物画も展示されている。「食虫植物で、狸の尻尾みたいな『ムジナモ』の植物画があります。海外でもすでに記載されていた植物だったのですが、花の形態についてはよく分かっていませんでした。牧野は日本にもこの植物が分布していることを発見し、ムジナモと名付けました。後に運よく開花した個体も入手し植物画を描いたのです。牧野が描いた『ムジナモ』の植物画はすごく精密で、エングラーという海外の植物分類学者が、植物分類学の専門誌に掲載し、牧野の名は世界に知られるようになったといいます」竹上さんが楽しそうに説明してくれた。

グッズも販売されている。牧野は研究と並行して執筆や出版に精力を傾けていたが、そのうちの『大日本植物誌』より作成された「サクユリ」「シコクチャルメルソウ」「アズマシロカネソウ」「ヤマザクラ」の植物画、牧野富太郎のポートレートなどをポストカードにしたものだ。

来館記念にぜひ、いかがだろう。(稲葉洋子)

11月26日まで。月曜休園。入園料(大人500円)が必要だが、企画展は入場無料。牧野富太郎については、JIBUN過去記事も参考に。

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