目白台の住宅街の合間にひっそりとたたずむ一軒家。畑と小さな田んぼもある。文京区内の田んぼは後楽園にしかないと思っていたけれど、ここにもあった。ちんじゅの森サロン「ほぐほぐ」。さまざまな「つくる」を通して、自然と一体で暮らしてきた先人の知恵を学び、循環型社会や新たなコミュニティーを形成することをめざし、NPO法人ちんじゅの森が運営している。代表の森村衣美さんは「稲の育ちを見守ること、季節の野菜を育てること、それらを食べること、季節の手仕事や年中行事を体感することを通して、これからの暮らしを考えるきっかけとなる活動をしていきたい」と話している。
ちんじゅの森は、明治神宮の森が造成80周年を迎えた2000年、明治神宮の森でチャリティコンサートを開いたことをきっかけに中尾伊早子さんが設立したNPO法人。伊勢神宮式年遷宮に関するシンポジウム事務局の仕事をし、遷宮が持続可能な循環型社会の精神を体現していることに感銘をうけ、自然と共生してきた日本人の知恵を多くの人に伝えたいと考えたことが活動の発端となっている。コンサートや民話語り公演、フォーラムなどを開催し、全国各地とのつながりを築いてきた。
発足20周年の節目となった2019年、前代表から森村さんが2代目代表を引き継ぎ、目白台に事務所を置くことになった。それがちんじゅの森サロン「ほぐほぐ」だ。この田畑は千代田区にある 東京大神宮のお供え物を作る田畑で、同敷地内の築70年の古い家を人が集える空間に改装したスペースを、ちんじゅの森が運営している。
これまでに、ほぐほぐで育てた藍で生葉染めや、梅干しづくり、干し柿づくり、新米の収穫のお祝いや注連縄づくり、餅つき、映画「人生フルーツ」上映会などもやってきた。ご近所の日本女子大の学生に手伝っていただくことも多い。今年の干し柿づくりは、鳥取県八頭町の柿農園とオンラインでつないで実施した。ちんじゅの森の理事のメンバーを通して、八頭町の渋柿を購入している。これまでの20年の活動実績から、地方とのネットワークや人脈があるため、多彩な活動につながっている。
(稲刈りを終えた小さな田んぼ)
自身は 高度経済成長以降に育ち、食べることには事欠かず、なんの不満も不自由もなく大人になったが、「命の確かさ」みたいなものへの飢えを感じてきたという。これまでのちんじゅの森の活動を通して、伝統文化も、今ある自然も、私たちの命も、これらを今につないできたのは「人」だとわかった。人の想いによってこそ、次の世代につながっていくと実感したことが今の活動の原動力だ。また「『ありがたい』は『煩わしい』と一体で、現代社会は『煩わしい』を一生懸命切ってきた結果、『ありがたい』も失われたのでは」という年長の理事の言葉に共感し、切ってきたことをもう一度つないでいきたいという。
(古い調度品を再利用)
鎮守の森は、人々が田畑を造るために森林を切り開いたとき、感謝と恵みを忘れないために残したものだといい、さまざまな世代が集って、春は豊作を祈り、秋は収穫を祝う場だったという。森村さんは「過去と未来の間に今があって、つなぐ役割を持って人は今を生きている。人と人、人と自然、過去と未来、異なる世代、そのつながりを感じたり伝えたりする現代版のちんじゅの森をつくりたい」という。
21日には昔ながらの「千歯こき」で脱穀し、すり鉢でもみすりをする「脱穀・籾摺り・精米体験」を予定している。「ワークショップは考えるきっかけにすぎない。目の前の食べ物がどんな背景や物語をもっているのか。そのつながりに思いを寄せるひと時になれば」と森村さん。コロナ禍で制約が多いが、少しずつ場づくりをしていきたいという。(敬)
ちんじゅの森サロンほぐほぐ(文京区目白台1-22-2)
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