JIBUNマガジン

2018年08月号 vol.37

ヘブンアーティストに会いに公園へ行こう/人形遣い、眞野トウヨウさん(遊楽マリオネット)

2018年08月03日 23:40 by inaba_yoko

 とにかく暑い。炎天下で何時間も演奏したりパフォーマンスを披露したりするヘブンアーティストは、さぞかし大変だろう。と、想像しながら、人形遣いの眞野トウヨウさんに教えてもらった場所に向かった。主に池袋や上野公園でヘブンアーティストとして活躍しているトウヨウさん。この日は上野恩賜公園での公演だ。

 ヘブンアーティストとは東京都の事業で、審査会に合格したアーティストだけが、路上でパフォーマンスができるしくみ。東京都の土地ならどこでもよいわけではなく、都から72カ所の公園やひろばなどが指定されている。

 この日のトウヨウさんの公演場所は、東京文化会館の近く、正岡子規の野球練習場の並び、こんもりとした森の前の路上。木陰になっていて風も吹き抜ける。暑さにはありがたい風だ。でも糸あやつりにはいかがなものか。実は6月に取材させていただく予定だったが、会場の公園で風が強くて舞台設営ができず、公演中止になってしまった。このくらいの風なら上演可能なのか?

「まあ、立ててみた様子によりますね」。トウヨウさんは、そう言いながら設営をすすめていく。人形掛けに吊された「出演者」たちが風に揺れている。大丈夫かな。

 大きなかばんの中から一つ一つ人形や大道具(出演する人形達にとっての)、小道具が取り出され、配置され、少しずつ舞台空間に変わっていく。これ、大きな舞台と同じだなあ。15分ほどで設営完了。トウヨウさんが鈴を鳴らし、BGMをスイッチオンする。

 ショーが始まる。風は大丈夫なようだ。もちろんトウヨウさん1人で人形、道具すべて操作する。BGMも人形操作しながら切り替える。最初の作品は、人形と人形がコミュニケーションを取ったり、人形が道具に触れてみたり、ステッキを振り回したり、ギターを弾いたり、シャボン玉(本物)を吹いてみたり。曲が変わり、2つめの演目はスカーフマリオネットといわれる頭と布だけの人形、「舞Dance」という作品で、人形がひらひらと宙を舞ったりしなやかに動き回ったりする。

 さあ、最後の演目は、ストーリーのある人形芝居。「小さな人形劇/Little Dream」というタイトルで、小さな男の子が花に水をやり、花が育つまでが物語られている。

 この3作品の組み合わせが1セットで、少しの休憩を挟んで、3~4回上演するが、その時の観客や天気などの状況で、作品数や演目を決めているという。

 この日、どのステージも観客はいっぱいだった。ヘブンアーティストは、「お代は観てのお帰り」方式舞台袖に小さなバスケットが置かれているが、そこにはそれほど途切れることなくお金が入ってくる。子ども、若者や高齢も、海外からの観光客も、額はさまざまだが投げ銭する人に偏りはない。散歩中立ち止まって小さな人形劇に引き込まれ、最後まで楽しんで観ていくファミリー、先を急ぐのか1つの演目だけみて去っていく団体、みんなが掃けるまで待って、人形を持ったトウヨウさんとツーショットで写真を撮っていく女性もいたり、さまざま。

 東京都のヘブンアーティストの制度は2002年に創設され、まだ16年、歴史は浅いが少しずつ人々の日常に浸透してきた。すべてが、というわけではないが人の行き交う路上での催しは、集う人と人を結び、そこには濃い豊かな空気が生まれる。昔は路上での演奏やパフォーマンスはそれほど制約なくさまざまに行われてきたが、今は、閉め出されている場合が多い。制度によって場を保証するのはもちろん、新たに人の力で受け入れの場を増やせば、人々の日々の暮らしはもっと豊かに熟成していくだろう。

 眞野トウヨウさんは、これまでいくつかの人形劇団で人形遣い師として活動してきたが、2017年にヘブンアーティストの試験に挑戦。「その時は、160人応募して一次審査では40組残り、最終合格者は23組でした。一次審査は5分のビデオ映像によるもので、映像にパスすると、そのあと、公園で実地試験があります。糸あやつりは、天候によって出来が違ってくるので大変でした」という。「緊張で細い糸がからんじゃったりして、落ち込んだ」そうだ。結果は合格だった。

 「自分も大道芸を観て歩いているとき、大道芸人とお客さんが直に触れ合っているのがおもしろかったのです」とトウヨウさん。それで試験を受けようと思ったとのこと。「ヘブンアーティストとして活動を始めましたが、芸をしていてもいなくても、人形といっしょにそこにいて、通りかかるお客さんのリアクションを楽しんだり、コミュニケーションを取り合ったりできるというのは、すごい満足感がある」という。この活動を始めてちょうど1年。「最初は音楽に合わせて人形を動かすだけのネタを演じていましたが、演目にストーリーを入れるようになったり、しかけを見せるようにしたりすると、お客さんが前より熱心に観てくれるようになりました。演じていく中にいろいろな発見があって、どんどんよくなっていくのを感じます」と笑顔になる。

 「内容がよくなると投げ銭の額も変わってくる」そうだ。熟練したアーティストになると、かなり高額になるという。「演目は季節によって入れ替えています。お正月には獅子舞を演じます」とのこと。

 よし、お正月になったら獅子舞、絶対観に来よう。(稲葉洋子)

 眞野トウヨウさん(遊楽マリオネット)のこれからの予定

8月5日(日)鳳明館   「妖怪の宿」に獅子舞、練り歩きで出演

8月7日(火)8日(水) 「いいだ人形フェスタ」(長野県飯田市)に出演

関連記事

普通のまちの本屋さんを増やしたい/小石川のぺブルズ・ブックス店長、フリーランス書店員・久禮さんに聞く

2018年12月号 vol.41

新しいことを始めたい人にぴったり/高齢者らをサポートする生活支援員

2018年11月号 vol.40

天野亨さんのリアル。「ともに」の心地よさを感じた

2018年07月号 vol.36

読者コメント

コメントはまだありません。記者に感想や質問を送ってみましょう。

バックナンバー(もっと見る)

2018年12月号 vol.41

まばゆいばかりのイチョウの黄葉.。夜は街頭に照らされ、夜桜ならぬ夜銀杏が美...

2018年11月号 vol.40

近年は米国流でハロウィンの仮装やパレードをする人たちが増えました。 先日は...

2018年10月号 vol.39

10月の台風はかつて珍しかったのですが、最近はそうでもなく、今年は秋台風が...