JIBUNマガジン 文京区

2024年03月号 vol.104

ありのまま、その人らしく。小さい子も、障がいのある人も、お年寄りと共に/「52間の縁側のいしいさん家」を見てきた

2024年03月22日 08:36 by Takako-Oikawa
2024年03月22日 08:36 by Takako-Oikawa

お日さまがさんさんとそそぐ縁側で、お年寄りがのんびりとくつろいでいる――。最近は縁側を知らない若い人もいるらしいが、千葉県八千代市の「52間(けん)の縁側のいしいさん家」には、70m以上の長い長い縁側がある。ここはデイサービスを中心に、小さい子も障がいのある人も、いろんな人がごちゃまぜで過ごす場だという。ごちゃまぜの居場所、千石のコドモカフェオトナバー「TUMMY」(過去記事参照)の橋本菜生美さんが視察に行くというので、連れて行ってもらった。

いしいさん家(ち)は、代表の石井英寿(いしいひでかず)さんが民家で始めた「宅老所」で、「みもみのいしいさん家」と「52間の縁側」の2か所ある。石井さんは淑徳大学で社会福祉を学び、卒業後、介護老人保健施設で働くなか、時間に追われながら何十人もの入所者の運動や入浴、食事などを流れ作業のように効率的にこなしていくことに「一体誰のためにしているのか」と疑問を感じたという。現在掲げている「ありのまま、その人らしく」の言葉通り、その人一人ひとりにあったケアができないものか。そう考えて30歳で独立、2006年に一軒家で通所介護(デイサービス)を始めた。お泊りや看取り、障がいのある人の日中一時支援、訪問看護など、子どもからお年寄りまでごちゃまぜで過ごす場ができていった。それが「みもみのいしいさん家」だ。

「52間の縁側」は2022年12月にオープンした。道路に面していない崖地で様々な制約がある中、「縁側」のアイデアを元に建築家・山﨑健太郎さんの手で設計が進められた。南北に細長い木造建築で、庭があり、池があり、居心地の良い不思議な空間が創出された。2023年度グッドデザイン大賞および日本建築大賞を受賞したという(参考記事)。

池の上はカフェ・工房のスペース。中央部がリビングで、端の方に離れのような座敷と浴室がある。壁やガラスがあるこれら「室内」のほかは屋根があるだけの板張りの「外」。入浴するには、いったんリビングから「外」に出ないといけない。室内と屋外の間にある板張りの空間、この建物は全体がまさに縁側だ。

「介護施設の常識からはかけ離れたデザインになっていると思いますが、みなさん心地よく過ごされています」と、52間の縁側マネージャーの鈴木有希さんは言う。

池を掘る、芝をはる、という作業は、地域のみんなでやった。敷地の境界の柵は、千葉に多い竹を活用しようと活動しているグループの協力で、子どもを交えてワークショップで作成。季節ごとに流しそうめんやもちつきといったイベントもやっている。

ここでは子連れ出勤も、ペット連れ出勤もできるという。鈴木さん含め、多くのスタッフが子連れ出勤経験者だそうだ。地域の親子に呼びかけて、赤ちゃんボランティアに来てもらうこともある。「子どもがいると、一日中怒っているようなおばあちゃんも笑顔になるし、歩けないお年寄りがよちよち歩きの幼児を心配してくれる。母子だけで行き詰っていた子育てが楽になることもある。ケアする側、される側という一方的な関係性ではなく、ありがとう、お互いさま、という関係性が育つ場です」

石井さんは常々「お年寄りは人生の教科書」と言っているそうだ。子どもは、お年寄りが耳が聴こえなければ大きな声で話す、歩けなければ支えてゆっくり歩くといったことを自然に学んでいく。かつてあった当たり前の日常の風景を取り戻したい。そんな思いが52間の縁側には込められているという。

介護保険上のデイサービスをしているが、お年寄りがやらなければならない「日課」はない。散歩がしたければするし、お風呂に入りたければ入るし、昼寝がしたければする。そこに自然に、まさにありのままで、思い思いに過ごしている。洗濯物をたたむ、配膳を一緒にする、畑の収穫をする、調理を手伝う。それは普通の家庭の何気ない日常だ。「デイサービスに来ているのではなく、仕事やお手伝いに来ていると思っている人もいます」

離れのお風呂は、壁の戸を動かすと露天風呂になる。まるで旅館のようだ。入浴させるスタッフは大変かと思いきや「そうでもないですよ」と鈴木さん。

庭ではヤギを飼っており、立派な小屋もある。ヤギを散歩させて戻ってきた男性は、諸事情あって居場所がなく、ここでヤギの世話や掃除などの仕事をしているという。スタッフには利用者の家族や、ペルー人、ギニア人といった外国の人もおり、障がいのある人も働いている。世代も国籍も超えた、ごちゃまぜの場だ。

いま駄菓子屋や時々寺子屋をやっているカフェ・工房スペースは、常設のカフェとしての活用が始まる予定だ。暖かくなれば、屋外は気持ちの良いスペースになる。池の上のスペースでくつろぐいろんな人の姿が目に浮かんだ。(敬)

※「いしいさん家」は大宮浩一監督のドキュメンタリー映画「ただいま それぞれの居場所」で取り上げられています。

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