JIBUNマガジン 文京区

2023年06月号 vol.95

気まぐれギャラリー探訪/画家、佐伯祐三と中村彝(つね)のアトリエをめぐる

2023年06月15日 10:54 by Takako-Oikawa
2023年06月15日 10:54 by Takako-Oikawa

JR目白駅近辺に用事があり、地図を眺めていたら、佐伯祐三(さえきゆうぞう)アトリエ記念館、というのを見つけた。正確にいうとギャラリーではないけれど、近所には中村彝(つね)アトリエ記念館もある。梅雨の晴れ間に訪ねてみた。

佐伯祐三は明治31(1898)年大阪に生まれ、昭和3(1928)年、30歳の若さでパリで亡くなった洋画家。パリの風景を描いた絵の数々は、一度は見たことがあるのではないだろうか。私の好きな画家でもある。折しも、大阪中之島美術館では佐伯祐三の展覧会が25日まで開かれているらしい。しかし佐伯祐三アトリエ記念館(新宿区中落合)は無料で、原画こそないものの、画家の創作活動をうかがい知ることができ、「ここで描いたんだ」という感動を味わえる。

最寄り駅は西武新宿線の下落合駅。聖母病院のすぐ近くにある住宅街の中にある。標識がなければ絶対迷うだろう。木々がこんもり茂り、落ち着いた雰囲気の中に、アトリエの復元建物がある。住居部分はデッキとなっている。佐伯の妻米子は昭和47(1972)年に亡くなるまでここに住んでいた。住居とアトリエは老朽化していたため、いったん取り壊して新宿区が復元整備した。

佐伯は東京美術学校(現東京芸術大学)で西洋画を学んでいるときに、象牙美術商の娘、米子と出会い結婚。大正10(1921)年にこの地に居を構えた。3年ほど暮らしたあとパリへ渡欧し、昭和元(1926)年から2年ほど暮らし、連作「下落合風景」などを描いたそうだ。

館内ではビデオが上映され、生い立ちや作風、交友関係、作品紹介などがじっくり見られる。生前に取ったとされる「ライフマスク」も展示されている。彫りの深い顔立ちは日本人離れした容貌だ。静かなアトリエは何時間でもいられそうな雰囲気だ。

そこからJR目白駅方面へ10分ほど歩くと、佐伯とも交流があった中村彝(つね)アトリエ記念館(新宿区下落合)がある。なかなかたどり着かず、垣根を刈り込んでいた近所の方に尋ねると、すぐそこだよ、と指さされる。住宅街の真ん中で、標識もあまりないのでわかりにくい。

中村彝(つね)って誰だっけ?と、名前だけではピンとこなかったが、重要文化財に指定されている「エロシェンコ氏の像」を描いた人だと聞けば、ああ、と思うのではないだろうか。明治20(1887)年に水戸藩士の三男として生まれ、肺結核で軍人になることをあきらめ、転地療養中に画家を志し、本郷菊坂の洋画研究所をはじめとする研究所で洋画を学んだ。

明治期から昭和初期にかけて、画家や文化人が集った新宿中村屋本店にも出入りし、そこの娘、相馬俊子に恋をしたが、俊子はインドの独立運動家ラス・ビハリ・ボースと結婚してしまい・・・という悲恋の物語はビデオで知ることができる。失意の中村がアトリエ兼住居を構えたのが大正5(1916)年。現在の建物は当時の姿を復元したものだという。

大正13(1924)年に37歳で亡くなるまで、ここで創作活動を続けた。当時売り出されたばかりのカルピスが好きだったようで、「カルピスの包み紙のある静物」などという絵(複製)も飾ってある。

晩年は病床に伏し、居室だったという部屋からは庭が眺められる。木々の緑がまぶしく、アジサイが輝くように咲いていた。どんな気持ちでこんな庭を見ていたのだろう。

落合周辺は、画家や文化人の住居が多かったようだ。新宿区は、中井にある林芙美子記念館とセットで「散策マップ」を作ってまち歩きを提案しているようだ。文京区に隣接した地区なので、ぶらりといかがだろうか。(敬)

新宿区立佐伯祐三アトリエ記念館(新宿区中落合2-4-21)電話03-5988-0091

新宿区立中村彝アトリエ記念館(新宿区下落合3-5-7)電話03-5906-5671

いずれも入館無料。10:00-16:30(入館は16:00まで)月曜休館。

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