JIBUNマガジン

2015年11月号 vol.4

【まち】消えゆく銭湯、まちの記憶を残したい/さようなら菊水湯プロジェクト

2015年11月09日 23:03 by Takako-Oikawa
 
 また一つ、まちの歴史を記憶にとどめる場所が失われる。文京区本郷・菊坂の老舗銭湯「菊水湯」。9月末で廃業した。4階建てのマンションになる予定だという。周辺は明治の作家・樋口一葉が暮らした場所であり、一葉が通ったという旧伊勢屋質店の建物や一葉ゆかりの井戸がある。菊水湯は明治中期創業と言われており、一葉と同時代からずっと、同じ場所で存在し続けてきた歴史的価値のある銭湯だ。
 5月には都内最古の木造建築の銭湯「月の湯」が廃業し解体。相次ぐ銭湯の廃業・解体に直面し、「文京銭湯保存委員会」が「文京区からこれ以上銭湯を失わないための方策を求める請願」を区議会に提出し、10月に本会議で採択されたほか、東京大学の学生らもかかわって、「さようなら菊水湯プロジェクト」が立ち上がり、記憶を後世に残す活動を始めている。
 

 菊水湯の廃業・解体の報を聞き、東大生や文京建築会ユースのメンバーが奔走したものの、保存はかなわなかったという。10月24日には関係者の協力で見学会を開いた。菊水湯は明治生まれの女性による「産湯に浸かった」との証言が残り、大正時代の地図には「ラジウム鉱泉 菊水浴」と載っている。樋口一葉の生活圏にあったことから、展示では「一葉も浸かったかもしれない」としている。建物は建て替えられてきたものの、この場所で100年以上、まちの記憶を刻んできた老舗銭湯だ。廃業直前まで、井戸水を薪で沸かしていたため、「湯がやわらかい」と評判だった。東京大学から一番近い銭湯として、学生にも親しまれてきた。
 
(薪を燃やして湯を沸かしていた釜場) 

 ついこの間まで使われていた番台や脱衣場、高い格子天井には昭和の風情が漂い、古いマッサージチェアや頭にかぶる式のドライヤーなどが時代を感じさせる。
 
 
 洗い場にはお決まりの富士山のペンキ絵。反対には富山市から見た北アルプスの山々が絵が描かれている。脱衣場には菊水湯を取り上げた記事や映像の展示のほか、受話器を取れば録音される黒電話やコメントノートが置かれ、来場者の菊水湯にまつわる記憶も収集された。今後、「さようなら菊水湯プロジェクト」では、冊子の発行などで、「菊水湯のある生活」の記録を後世に残す活動をするという。

 
 
 
 すぐ近くには、1年前に取り壊しの危機にあったが、跡見学園女子大が取得することによって保存活用が決まった旧伊勢屋質店があり、11月から土日の一般公開が始まった。銭湯のコミュニティーセンターとしての機能に着目し、保存活用活動をしてきた文京建築会ユース代表の栗生はるかさんは、旧伊勢屋質店保存活用にもかかわった。「一つの建物を残すだけでなく、一帯にある歴史的価値ある場所を残していかなければ、活用にもつながらないのに」と、菊水湯がなくなることを惜しむ。菊水湯向かいにあった風情ある理容店も、菊水湯廃業と同時に瞬く間に廃業して更地になってしまった。「建物がなくなると、そこに何があったかもう思い出せない。それぐらい、建物を残すことは大事なのですが」
 
 
(上=解体される都内最古の木造建築の銭湯「月の湯」=7月) 
(更地になると何があったかさえ思い出せなくなる=10月)


 5月いっぱいで、都内最古の木造建築とされる目白台の「月の湯」が廃業し、文京建築会ユースが事務局を務める「文京銭湯保存委員会」が電子署名を集めるなどしたが、7月に解体され、現在は更地になってしまった。今年廃業した銭湯は2軒。ここ数年で計4軒が廃業し、文京区内の銭湯は7軒になってしまった。
 危機感を持った同会は9月議会に「文京区からこれ以上銭湯を失わないための方策を求める請願」を二つの委員会に提出。総務区民委員会では、菊坂・菊水湯を核とした歴史・景観・文化について調査を求める内容が採択された。厚生委員会では、銭湯を必要とする人の調査と、これ以上銭湯を失わないための方策を求める請願がいったん不採択となったものの、本会議で逆転採択された。請願の内容など詳細は区のホームページで。

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