JIBUNマガジン 文京区

2023年01月号 vol.90

「何気ない日常にイベントが自然に入っていく」尾久の原公園のオギで鬼のオブジェづくり

2023年01月20日 08:33 by inaba_yoko
2023年01月20日 08:33 by inaba_yoko

さくらトラム「東尾久三丁目」から徒歩10分の荒川区東尾久7丁目に、都立「尾久の原公園」はある。そこで、公園の湿地に自生しているアシやオギ(ススキに似た植物)を使って、節分に向けて子どもたちと鬼のオブジェを作って飾ると聞いて参加した。

公園のスタッフが、大量のアシやオギをサービスセンター前の広場に運んでくれていた。集まったのは大人と子ども合わせて20人ほど。まずは、葉を少し落としながら、茎を同じ高さにそろえていく。

次に、太目の束をたくさん作り、数人で組んで、25束くらい並べながら、蓑傘を作るように編みこんでいく。大きめのものや小さめのものも作り、廃材で作った鬼の骨組みに、蓑傘ふうに仕上げたものをしっかり巻き付けていく。

鬼の顔は、木片などを使い、体の上に頭を置き、鬼の姿が完成する。

「昨年、荒川区社会福祉協議会から、尾久の原公園で落ち葉遊びをしてくれる団体を探しているけど、やりませんかと声がかかって」と、毎月のオブジェ作りに関わっている白井美典さんは言う。白井さんは子育てサロンの運営などを手がける「iroToriDori(いろとりどり)」の代表。打ち合わせのため尾久の原公園の指定管理者、アメニス東部地区グループのサービスセンター長の松田さんを訪ねたとき、「公園で実はこんなことをしてみたかったと自団体の活動を話すうちに、話がどんどん膨らんで」。松田さんからも「いろいろコラボができそうですね。サービスセンターの横で、センター主催で毎月オブジェを作っているが、いずれ地域の人の主催で勝手にやってもらいたい」との話があり、「気づいたら毎月ここにいます。とにかく出来上がりがすごいのです!」と白井さんは興奮気味に話す。

センター長がある程度計画して、公園にある素材とそこにいる人たちでアイデアを出し合いながら、オブジェが作り上げられる。「この素材で何ができるかなって、純粋なアートとして全身を動かし取り組めるので、終わったあと達成感があって楽しいです」。作業している風景が、都会の荒川区にいるのに、急に田舎に来たように思える。時間の流れもすごくゆっくりに感じられるという。自らの子どもも参加している。ハロウィンのとき「かぼちゃのオブジェ作りに行くよ」と言ったらついてきて、大人がカッターで切り抜いたところを手でほじったり、ペンキ塗りもやったり、素材で勝手に遊びを生み出したり。普段やれないようなことを体験させてもらって楽しそうだったという。「松田さんのファンになって、くっついていて。指導しない松田さんは、兄貴親分みたいな感覚なのかな」と笑う。近くの違う場所に遊びにきても、「ちょっとセンター長に会いにいってくるわ」と、松田さんに会いに行くという。

オブジェ作りの参加者の募集は、「きっかけになる人」たちにまず声をかけているという。「周りに声をかけられるきっかけになる人に知らせます。通りすがりの人とか、普段公園を使っている人たちが、いつもあそこでなんかやってるな、参加できるのかなと、だんだんと顔合わせる中で広がっていく。そんな感じですね」。松田さんの「何気ない日常のなかにこういうイベントが自然と入っていく」という言葉に共感しているという。通りすがりの子どもたちも毎回参加してきて、おもしろいから次も行っててみよう、という広がりにしたいと思っているそうだ。

尾久の原公園の広さは約6万平方メートル。都立公園としては狭い方だ。化学工場の跡地で、1977年に都が買収し、空き地になっていたところに池と湿地が生まれ、アシ(ヨシ)やガマが生え、鳥や昆虫が集まってきて「トンボの楽園」として知られるようになったため、自然をいかした公園として整備し1993年に開園した。

都立公園というちょっと固そうなところでオブジェや落ち葉のイベントをやってきた松田さんは「ぼくがセンター長になってからまだ2年ちょいですが、いろいろ変わったと言われます」と笑う。「公園の管理って、役所と変わらない。でも、せっかくここにこの場があるのだから、ルールは守りながら、何かやりたいっていう人が好きにやってもらえるようにイベントを作っていきたいと思っています」

たとえば、白井さんと一緒にやった落ち葉のイベント。秋に、じゃぶじゃぶ池が落ち葉でいっぱいになるので、子どもたちは落ち葉の中で遊びたくなる。親が子どもを落ち葉の中に放り込んで遊んでいる姿も見かけた。落ち葉プールというイベントを企画したら楽しいだろうと思ったものの、十分な安全が確保されないと実施は難しい。「それって、もったいないじゃないですか」。そこで、公園にこんなに落ち葉がある、落ち葉で遊んだらきっと楽しい、やってみたい方がいたら手をあげて、と宣伝したら、白井さんと中高生の居場所「ホッとステーション」の大村さんが手をあげたのだという。

「白井さんや大村さんが、落ち葉イベントをやる。ぼくらは落ち葉を集めたり撒いたり、応援と協力にまわる」。その経験から「土日とか公園の中でもっといろいろな人たちがいろいろな遊びをやっているというふうになればいいなあ」と思った。公園でイベントを任せられる人たちを呼び、そのネットワーク構築をはかりたいと思っているという。イベントひとつひとつが口コミで広がっていって、「次やるときは自分にも声かけてほしい」というように、自然発生的に広がればなあと思っている。 

3月1日~7日には、「アートフェス」のようなものを企画しているが、これも、「公園側がイベントを用意して参加者を募集するのではなく、参加したい人が集まって、それぞれが思い思いに自分たちのブースをこういうふうにやります」という形でやりたいという。

その次は?「朝市みたいなものもおもしろいですね」と即答。「最初は3つくらいのお店があって、それが定着していって、『私も私も』って、それが5軒10軒となって、ゆくゆくは20店舗30店舗のイベントになるといいなあ」。そして「運動会みたいなこともやりたいし、お祭りという形で、縁日の模擬店を出すとか、やりたい人がチャレンジしてもらって、おもしろいことやってくれたらいいな」

松田さんがまちの人たちと一緒に作りたいイベントのアイデアは尽きないようだ。(稲葉洋子)

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