JIBUNマガジン 文京区

2022年05月号 vol.82

「実家に帰るような気持ちでどうぞ」。入院・通院する子どもと家族の宿泊施設、ドナルド・マクドナルド・ハウス 東大

2022年05月20日 23:54 by Takako-Oikawa
2022年05月20日 23:54 by Takako-Oikawa

 「17歳のときに白血病の治療を始めて、外泊の時や通院の時もドナルド・マクドナルド・ハウスにはお世話になりっぱなしでした・・・」。広いホテルのような部屋の中にあるノートに、こんな一文がつづられていた。文京区本郷の東京大学構内にある「ドナルド・マクドナルド・ハウス 東大」。池之端門にほど近い緑に囲まれたモダンな建物は、隣接する東京大学医学部附属病院など、病院に入院や通院する子どもとその家族のための滞在施設だ。2011年12月、国内8番目のハウスとしてオープンした。

 ドナルド・マクドナルド・ハウスはアメリカ・フィラデルフィアのアメリカンフットボール選手のフレッド・ヒルが、3歳の娘が白血病になって大学病院に入院した際、付き添いや通院する家族が疲弊し、心身の負担が大きいことを実感し、近くに滞在施設ができないかと奔走して作られた施設だ。マクドナルドをはじめとする企業や商店、医師や同僚の選手らのサポートで1974年にできて以来半世紀近く、いまや世界に350以上のハウスがあり、国内でも2001年に世田谷区で第1号が誕生し、現在は札幌から福岡まで11カ所ある。Home- away- home わが家のようにくつろげる第2の家。これがハウスの理念だ。

 「コロナで利用者は三分の一ぐらいに減りましたが、NICU(新生児集中治療管理室)や臓器移植などで病院にかかる方の利用が多いです」と、ハウスマネージャーの任田ひろみさんは言う。ハウスは4階建てでスタイリッシュなつくりで、1階と4階は共用スペース、2階と3階に12の部屋がある。1人1泊1000円で、別途リネン使用料189円がかかる。チェックアウトの際に部屋を清掃して出ることになっている。コロナ禍でも2021年は168家族が利用した。

 1階には寄付者の名前が連ねられた壁一面のプレートや、寄付の本やマンガなどがずらり。図書コーナーやプレイルームもある。運営費はすべて個人や企業からの募金や寄付でまかなわれている。

 プロ野球やサッカー、相撲といったスポーツ選手や団体とも関係があり、プロ野球でホームランを1本打つごとに寄付する、という選手も。俳優ら著名人からの支援もある。

  2、3階の計12室の部屋はベッドやソファが並ぶホテル風。室内にはメッセージを記入するノートもあり、書き込みがたくさんあった。窓の外には緑と、池之端のまちが望める。

 「考えを整理する、という意味でも、個室であることが大事です。共用スペースでコミュニケーションを取れますが、1人になりたいときもあると思います」

 4階にはキッチン等のスペースがある。寄付の食料もある。家族ごとに冷蔵庫のスペースを分けて使う。IHのキッチンも3カ所に。テレビやソファがあるリビングスペースもあって、くつろげる。「屋根が傾斜しているので、包み込まれるような感覚になり、温かい家のような設計となっています」と任田さん。「本来はみんなで集まって調理しながら会話してもらいたいところですが、コロナなのでできず、心理的ストレスが大きいと思います」

 コロナの前は区内ホテルのレストランスタッフや企業のボランティアがカレーを作ったりビュッフェにしたりして、滞在する家族がいつもとは気分を変えレストランに行って食事を楽しむ感覚が味わえるような工夫もしていた。滞在が長引く家族などはそれでがんばろうという気持ちになれるという。今は弁当を作って持ってきてもらっている。

 ハウスを支えているのは企業ボランティアだけでなく、無償の市民のボランティアだ。任田さんら専従のスタッフは3人だけで、共用スペースの掃除や洗濯の担い手や、ナイトボランティアらの支えで24時間365日、必ず人が常駐している体制を組む。地域の主婦や社会人、学生など、現在は100人以上が活躍しており、コロナ前は270人もがかかわっていた。かつて自らの子育てが大変だったから、一段落したいま力になりたい、という主婦や、リタイアしたから社会のために役立ちたいという男性、いまやボランティアが身近になっている学生らが担い手だ。「子どもが病気で入院や通院をしている家族、ということを理解し、意識が高く、芯が通った方ばかりです」と任田さん。昨年10年表彰をした際、57人が該当者だった。長年同じ人がかかわっているということだ。

 任田さん自身、ハウスがオープンする際、当初はボランティアとして応募した。しかしスタッフにならないかと言われ、開設時からのスタッフとして働いてきた。文京区民で、子どもも育ったことだし、地域への恩返しの気持ちがある。「今の若い人たちは孤立化しているし、お母さんたちがつらそう。実家に帰ったような気持ちになってもらえたら」と話す。利用者の母親たちは娘ぐらいの年ごろが多いので、「とても他人事とは思えない」。いつか子どもが元気になって、ハウスのことを思い出してあったかい気持ちになってもらえたら。「おせっかいな母」のような任田さんの願いだ。

 ハウスではボランティアを募集している。2週間に1度、3時間の活動で受付業務、清掃やイベントのサポートをしてもらうという。問い合わせは東大ハウス(03-3812-9877)へ。ハウスのボランティア活動についてはサイトでも。(敬)

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