JIBUNマガジン 文京区

2022年01月号 vol.78

「春日局」屋敷跡と井戸を訪ねる美濃の旅/ぐるぐる、偶然の出会いで「発見」

2022年01月16日 19:03 by inaba_yoko

今回は、文京区つながりの、少々私的な旅行記を。実は、私は、下手の横好きで講談に取り組んでいて、数少ないレパートリーのひとつとして、文京区ゆかりの女性、「春日局」を演目にしている。講談というのは台本をただ読むのではなく、そのストーリーにまつわる話を、聞き取りしたり、図書館で調べたりして取り入れ、自分だけの台本を作り話すもの。

徳川三代将軍家光の乳母で大奥を作った「春日局」については、文京区には、湯島の麟祥院に、死後も天下の政道を見られるよう、石の四方に穴が貫通している局の墓があったり、領地(現春日)に稲荷神の化身と思われる白髪の老人が現れ、この地の発展を予言したことから建てられた「出世稲荷」(浪人の妻から出世をした春日局に因んで名づけられ、拝むと出世すると言われている)があったりなど、ゆかりの建物や名称が残る。他県にも、川越は喜多院というお寺には、江戸城から移築されたという春日局の部屋がある。どこも実踏の上、台本に入れ込ませていただいてきた。

もう1つ、以前から気になって、いつか行こうと温めていた場所がある。春日局(当時は福という名)の夫の稲葉佐渡守正成が、関ヶ原の戦いで主君小早川秀秋が豊臣家から徳川家に寝返ったので、主家を去り妻の福と3人の子どもと共に赴いた美濃の「谷口の里」だ。一家はここで約3年ひっそりと暮らし、その後、福は佐渡守と離縁、徳川秀忠の嫡男、竹千代(後の徳川家光)の乳母となった。

「谷口の里」はネットに取り上げられてはいたものの、地図では場所がよく読めない、電車やバスと徒歩でいけるところなのだろうか。なんとかして、静岡の1月9日の講談発表会以前に取材し、その旅行記を簡単にでも台本に入れ込みたい。面白くなるか、それ以前の問題として場所が見つけられるか。めざすは「春日局屋敷跡」「春日局ゆかりの井戸」。幸運なことに、今回は同行してくれるという人が2人見つかり、しかも車を出してもらえた。さすがの1人旅、電車徒歩旅が好きな私も、今回は2人の道連れと車がとてもありがたい。

まずは、岐阜県関市へ。キーワードは武芸川町(むげがわちょう)谷口(たにぐち)。「着いたけど、どこにあるの?」「わからない。谷口のまちをぐるぐる回ればあると思う」「おい!」というやりとりからスタート。車とわかってから調べが甘い。反省。「武芸川道の駅」の大きな案内板に、武芸川上流に「春日局ゆかりの井戸」とあった。よかった。

ところがとんでもない。どこを走っても井戸や屋敷跡の矢印はない。少し走ると谷口ではないまちに入ってしまうし。「地図では河原にあったよね」「河原に井戸はいらないでしょ、山の中だと思うよ」。周りは山だらけ。いったいどの山に? 木材工場のガレージで作業しているお兄さんは、「さあ、わからないです」。郵便局の局員さんならと尋ねると、「そんなものがこのまちにあるんですか?」地元の人もあまり知らないみたい。

斉藤家と春日局のゆかりの寺という「汾陽寺(ふんようじ)」と「法泉寺」を新たなキーワードにして探してみる。「汾陽寺」がカーナビで出てきた。前日の雪が残る細い道を登っていくと山の中に由緒正しげな禅寺の立派な建物が姿を現す。そこで聞くと、屋敷跡や井戸は法泉寺の中にあると思うとのこと。

これで辿り着けるかも。ぐるぐるとなんとか「法泉寺」に着いたが、庭には屋敷跡なんて見当たらない。寺には誰もいない。「谷口の里には来たし」。井戸や屋敷跡はあきらめようと思ったとき、1台の車がやってきた。運転していたのはなんと、武芸川町郷土史研究会会長、古田正雄さん。おー、ついてる。屋敷跡や井戸への案内と、もちろん解説もしてもらった。大河ドラマ関連でも解説し、そのフィルムがNHKにアーカイブとして残っているそうだ。

屋敷跡は今は畑となっていて、のどかな山里だ。井戸は枯れることなく水をたたえていた。

佐渡守は弟の改田孫六清常を頼ってこの「谷口の里」に住んだという。その改田家は代々続き、今も子孫の家があり生活している。井戸にプラスティックのバケツがおいてあることから、この井戸から畑に水やりをしているのではないかと思う。氏神様も祀られている。「谷口の里」というのは法界とみなされ、多くの武将などが閑居、隠棲した地で、ひっそりと住むには適しているという。

その日は、関市のとなりの美濃市で宿泊。美濃は江戸時代から和紙で栄え、出版や造幣などあらゆる紙の分野を支えた紙商人たちの邸宅が今も建ち並び、往時の栄華を漂わせている。商人たちが自身の繁栄を示すために競って高さをあげた「うだつ(漆喰の防火壁)」が数多く残っている。

宿泊したのは、紙商、松久才治郎の古民家邸宅を改修したもの。築90年を超えるという。以前は、主賓を迎える迎賓館として使われていたそうで、開放感のある座敷、ぐるりと囲む廊下は、ガラスの引き戸があり、そこから広くて風流な庭が見渡せる。今は南天の季節で、あちこちに南天の木と赤い実が目に入る。玄関をあがると、玄関の間と右手に2室の茶室もある。部屋は全部で5つ。大きな床の間もある。

建物は、なるべくそのまま使い、不要な改修はしないというコンセプトだという。室内はここかしこ、和紙アートや和紙のオブジェが置かれていた。宿には、「washinary」という和紙の工房もあり、楽しみがさらに付加される。「まちづくりの会社が運営する店」という宿で、宿泊費はずいぶん安いと感じた。

翌日には講談の原稿を起こし、発表会に無事に間に合わせたことは言うまでもない。暗記に少々難があったが、大目にみよう。(稲葉洋子)

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