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2021年11月号 vol.76

まちかどへ、芸術の旅①/上野の博物館と谷中を往復し体感「丸井金猊⇔法隆寺と聖林寺」展

2021年11月14日 22:55 by inaba_yoko

有名な美術館、身近なギャラリーやアトリエ。展覧会といえば、公園などの野外も含め「ある」固定された場所に作品が展示されている、と思っていた。ところが、「芸工展2021」では、開催場所から移動して楽しむ企画があった。そのうち2つを紹介する。「Stay Home」で約2年間続く閉塞感の中で、「お出かけ」「旅」のような言葉に胸がときめく。

今年も、台東区谷中1丁目にある「丸井金猊ラボ∞谷中M類栖」で、「丸井金猊(きんげい)」の作品展示が、金猊の孫にあたる丸井隆人さんの企画により9月~10月に開催された。展示名は芸工展2021「丸井金猊⇔法隆寺と聖林寺」。

上野の東京国立博物館で、法隆寺金堂の仏像や壁画、聖林寺十一面観音が見られる展覧会があることに触発されて企画したという。谷中M類栖では、コロタイプ印刷された法隆寺金堂壁画全12壁のプリント画像を展示、金堂内となるべく同じ方位になるように配置した。

また、金猊が描いた制作年も画題も不詳の屏風作品「観音圖(仮)」も展示。ここには百済観音像が描かれている。美術史の研究者が指摘するところによれば、百済観音以外にも法隆寺救世観音、聖林寺と法華寺の十一面観音の衣装パーツが引用され、仏画とはかけ離れた洋風衣装に転化されているという。赤いドレスの女性には「霊子」という名前がつけられている。

東京国立博物館の展覧会を見てから谷中M類栖の展示を見るとより深まるという趣向だ。これは昨年、東京国立博物館特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」に着想を得た。特別展はコロナの影響で中止になったが、谷中M類栖では、不定期開催ながら丸井金猊「写と想像⇔創造」展を開催、幻の特別展とは形を変えて再生しようと、宝塚市中央図書館の協力でコロタイプ印刷された法隆寺金堂壁画全12壁を展示した。今年も同じプリント画像を使っている。

東博では、聖林寺十一面観音の展覧会と、法隆寺金堂の仏像や壁画をバーチャルリアリティー(VR)で見られる展示がある。谷中M類栖で主催者の隆人さんから展示の説明を聞いたあと、東博でしっかり見るポイント3つを聞き、送り出される。

①金猊の屏風作品「観音圖(仮)」に描かれた霊子という女性の掛けているストールと、聖林寺十一面観音像の上半身に斜め掛けになった条帛(じょうはく)の形の類似を、「観音圖」の画像を手に取って見較べて来てください。

②VR作品では1号壁から12号壁までが、ふだん立ち入れない内陣に入ってその視点で見られるので、谷中M類栖で感じた空間配置を体感して来てください。

③百済観音像が元々法隆寺金堂内にあったのではないか?と推定される位置に、ボワッとVRならではの映像演出で現れます。それと谷中M類栖の「観音圖」の百済観音の立ち位置が一致することを確認してきてください。

上野の東博までは徒歩15分道のり。いつもは自転車でさっさと通り過ぎる芸大の美術学部と音楽学部を分ける道も、なんだかいつもと違って展覧会のポスターばかりが目に入るように感じた。会場内でも、教えられた見どころをしっかりみて楽しんだ。隆人さんの事前の説明により、わくわく感が膨らんでいたからだろうか。

2時間ほど東博にいて、再び谷中M類栖へ。見てきた3つのポイントをシェア。金猊の「観音圖」で霊子の掛けているストールは、聖林寺十一面観音像の条帛(じょうはく)の形と、まるでそっくり。美しい曲線だった。遊び心もあるかもしれないが、美しいものを追求した結果かと思う。

法隆寺金堂は内部に入れるわけではないので、壁面をすべて拝観することはできない。ふだん観られない部分をVRで確認。谷中M類栖戻ってきて見たら、ほぼ同じ空間配置だった。VRでボワッと浮かんだ百済観音は今の時代の技術があるからこそ楽しめるものだった。金猊の「観音圖」の百済観音の立ち位置と一致した。

ちなみに法隆寺の壁画は昭和24年の火災で焼損している。コロタイプ印刷して展示してあるのは焼損前の昭和11年のものだ。昭和43年に設置された再現壁画と言われる模写は、コロタイプ印刷をもとに、数多くの名だたる画家により制作された。谷中M類栖の展示では、壁画の解説や再現の模写を担当した14人の画家について記述したキャプションファイルも置いてある。

展示の空間配置といい、隆人さんが細かく調べ、研究し、取材を重ね、工夫を凝らして、壁画の再現に力を注ぎ向き合ってきた強い思いを感じる。「それは僕の研究っていうより、過去の研究者の研究ですね。僕はそれをリデザインしているだけで」と隆人さんは笑う。隆人さんは、ウェブデザイナーとしての仕事のかたわら、祖父である邦画家・丸井金猊の埋もれていた数々の作品を再発見し、管理、修復、展示の企画を続け、それらの作品に光をあて、世に再評価されるように尽力してきた。(過去記事参照)

そうして生まれた今回の企画。上野と谷中往復の旅で、出発前に見たときより、一段と展示が親しみやすく迫ってきたのはいうまでもない。(稲葉洋子)

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