JIBUNマガジン 文京区

2018年12月号 vol.41

普通のまちの本屋さんを増やしたい/小石川のぺブルズ・ブックス店長、フリーランス書店員・久禮さんに聞く

2018年12月08日 14:56 by Takako-Oikawa
2018年12月08日 14:56 by Takako-Oikawa

 

 小石川3丁目の住宅街に、2階建ての家を改装した小さなまちの本屋さん「Pebbles Books(ペブルズ・ブックス)が20189月にオープンした。Pebblesとは小石のこと。店長の久禮(くれ)亮太さんはかつて、後楽園駅・春日駅近くにあったあゆみBOOKS小石川店(2017年閉店)の店長だった。閉店より前の2014年に退社し、フリーランス書店員として活動している。フリーの書店員とは? まちの本屋さんで本は売れるの? 次々に浮かび上がる疑問を久禮さんにぶつけてみた。

 

 

普通の本屋の基本形を示したい

――ご近所さんの間で、青ナポ(レストラン「青いナポリ」)の近くに本屋さんができたと話題なんですが、どのような経緯でここに開店したのですか

「ここはもともと、製本会社の社員のための建物だったんです。その製本会社が4年前、神楽坂モノガタリというブックカフェを始めるというので、書店部門をやってほしいと声がかかった時からのご縁です。本屋の王道をやりたい、普通の本屋の良質な基本形を示したいという話をしたら、この空き物件を使っていいよと言われたのです。床張りも壁塗りも自分たちでやり、本棚も自分で作りました」

 

 

――退社したタイミングで神楽坂のブックカフェのお話があったんですね。そもそも、書店員を辞めて何をしようと思ったのですか

「事業計画を作るとか、リスクを背負うとかは性に合わない。独立して実店舗を持つのではなく、こちらから出かけていくスタイルがあってもいいのではないかと思っていました。店主でなく、組織で働くのでなく、無所属の書店員をやってみるかと」

 

 

――フリーの書店員ってどういう仕事なのかイメージできないのですが

「そうですね。書店員というと、荷さばきをして棚に並べる、単純作業のイメージでしょうね。実際、物量が増え、作業もすごく増えています。私はこの道に入って20年以上になりますが、職人的な書店員っているんです。ただ、オレの背中を見て学べ、的な方が多くて、今の若い人は書店員のコアなスキルがわからないまま日々の雑務に忙殺されている現状かと思います。書店員の専門技能を誰にでもわかるように示したい気持ちがあります」

 

 

本を読む以上に人を読む

――書店員の技能とは

「人の好奇心や欲望のあり方に敏感であること、でしょうか。本に詳しいとか、セレクトが光る、とかでなく、本を読む以上に、人を読む。あの人は何を求めているかな、何度も手に取っていたけど結局買わなかったのはどうしてかな、今の売り場はあの人に合わないかな、と考える。加えて、どの本が売れたか、どういうセットでまとめ買いしたかといったデータの分析も必要です。そのうえで仕入れ、セレクト、売り場づくりがあるのです」

 

 

――店長をされていたあゆみBOOKSも、思わず「お、」と本を手に取ってしまう売り場でした

「個別具体的な客にどう刺さるか、具体的な人物像に対する引き出しをいかに積み重ねているか、が『ぐっとくる売り場づくり』に必要です。それと、膨大な新刊、既刊の中から売れ筋を選ぶ。話題になっていないけど知る人ぞ知る良書であるとか、ロングセラーについて知っていることも大事。ベストセラー、ロングセラーを平台に置いても売れないことはよくある。経験則的に『正しい置き方』を知っていることも重要です。感性や感覚と、どの本がどのコーナーでどれだけ売れたかの数字を検証し、かけあわせて次のコーナーづくりにつなげる」

 

 

――それで売れたら書店員冥利に尽きますよね

「もちろん読みがはずれて売れないこともあります。どの本を選び、どこに置くか。どうみせるか。この組み合わせは無限なので、日々整理しながら、今日はハマった、マズった、という積み重ねが書店員の経験値となっていきます」

 

 

――とはいえ、それでフリーになって、仕事はあるのでしょうか

「おかげさまで全国あちこち出向いています。実は本のある空間づくりをしたい方は増えている印象です。でも、書店のノウハウがない。ですから、中規模店の棚づくりのほか、神楽坂のブックカフェをはじめ、さまざまな分野からお声がけいただいています」

 

 

普通のまちの本屋に

――本が売れない時代になり、本屋さんがどんどん減っています

「出版バブルの時期は、バンバン出店して閉じても大丈夫というしくみがあり、均質化した店舗になったり、まちの本屋さんがつぶれたりしましたが、堅調な書店もあります。二十数年前の水準に市場が戻ったという感覚ですね。大手は会社維持のために膨大な流通を扱っているがこなせなくて、地域にあった品ぞろえができていない。個人書店は仕入れに限界があって多様な品ぞろえができないから、いろんな客に懐を開くことができない。その中間がないんです。私はどんな人が来ても本を買いたくなる本屋をあちこちに増やしたいのです」

 

 

――開店間もないですが、順調ですか

「ご祝儀で来店される『オープン景気』が終わっても、意外に日常的に通ってくる近所の方が多いです。あゆみBOOKSで見かけた方も結構おみえです。ママさんも来るし、仕事帰りの方も立ち寄るというかんじです。文京区という土地柄の特徴は、教育熱心な若い親が多く、子どもに本を買うと同時に自身も買うという傾向があります。もちろん、地元ゆかりの文豪好きの方や、時代小説の新刊を必ず買う方もいらっしゃいますが、何かを研究している方なども多いですね。本を置いているだけ、という店を脱し、この地域の人が欲しくなる品ぞろえの普通のまちの本屋として、これから本屋さんを開きたい人に示すモデルになれたらと思います」

(敬)

 

Pebbles Books (ペブルズブックス)

文京区小石川3-26-12

定休日:火、水曜日

営業時間:月、木、金、土13:00~22:00、日曜日10:00~19:00

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