日暮里駅から東に向かう「日暮里繊維街」の中程のあたりを左に入ったところに小劇場「d-倉庫」がある。いつも若者たちがたくさん出入りしているのを見かけ、どんな芝居がかかっているのだろうと、ずっと気になっていた。
そのうち、「あの小屋はなかなかいい作品をやっているよ」とか「今度、○○劇団が手打ち公演をあそこでやるんだって」という噂が頻繁に聞こえてくるようになった。そうこうしているうちに、知り合いの役者さんがこのホールでの公演に出演、観客として小屋に入るチャンスがあった。
外側の様相は、まさに「倉庫」。外階段をあがった右手に休憩用のテーブルと椅子。2Fのホール入口を入ると、広いロビースペースになっていて、受付の他にバーカウンター、休憩用テーブルと椅子、楽屋もある。奥の階段から客席の後方に降りていく。
客席はキャパ100くらいで階段状になっている。舞台は、間口約8m、奥行約9m。この奥行きは使い手にはありがたい深さだと思う。
最初に登った階段の下に立看板がおけるようになっていて、その奥が搬入出口、入れば舞台の裏手に出る。
取材に伺った日は、若い役者さんが多く出演している劇団の上演だった。1ベル2ベルが鳴って、開演したところで、d-倉庫の劇場スタッフ、金原知輝(きんぱらともき)さんにホールについてお話しを伺う。
――― d-倉庫が誕生したあたりの話を聞かせてください。
2008年12月から劇場としてスタートしました。
劇団OM-2の主宰者でd-倉庫のオーナー、真壁茂夫が倉庫だったものを借りてリフォームしました。私は、2009年4月から参加しています。ここの劇場スタッフは4人で、そのうち3人はオーナーを含めOM-2の劇団員です。
――― 日暮里を選んだのはなぜですか。
劇場スペースは、新宿など東京のほとんど西側の方に固まっています。東側方面の下町の雰囲気のいい所に劇場を作りたかったのです。
――― 真壁茂夫さんと、劇団OM-2について知りたいです。
OM-2は1987年に真壁茂夫が中心に旗揚げした劇団で、常に実験的、前衛的な作品を発表してきました。94年ごろからアメリカ、ヨーロッパ、アジア、アフリカのフェスティバルに招聘され、95年には「カイロ国際実験演劇祭」で最優秀作品賞を受賞しました。
真壁茂夫が劇団の全ての作、演出、美術を手がけています。
――― 主にどこの小屋で公演していたのですか?
昔は、「die pratze」がメインの劇場でした。
作品が全部、前衛的、実験的、過激なものだったので、よその劇場では条件が厳しくなかなか貸してくれずに大変でした。それなら自分たちで劇場を作っちゃおうと、88年に田端に、die pratzeという小屋を作りました。ビルの1Fで、勿論家賃を払いながらでしたが……94年に神楽坂に移転し、麻布の東京タワーの近くにもうひとつ「die pratze」を作りました。その後麻布と神楽坂の両方に立ち退き問題が起こり、いろいろ変遷をしながら、今はd-倉庫に一本化されました。
――― 他の劇場との違いはなんですか。
OM-2が作品の内容上、劇場で苦労してきたので、マイナージャンルの作品や先駆的実験的な作品を上演する団体をぜひ応援したいと思っていることです。
コンテンポラリーダンスや舞踏を作品化したものなどの上演に対しての応援ですね。
少しでもそういったものに光を当て、応援することによってマイナージャンルの認知度を高めたり、金銭的にも…実際マイナージャンルを手がける団体は金銭的に厳しいところが多いですから。
――― 具体的にはどのような。
たった4人の技術スタッフで照明・音響その他すべてのメンテナンスをこなしています。それによって、劇場のレンタル料を安く抑えて、借りやすくしています。安く借りられて、それでも備品や空間のメンテナンスは質よく保っていこうと思っています。みな舞台が好きなので、人件費が少なくても苦になりません(笑)
公共ホールなどは、使い手に対して制約がありすぎて、そこに合わせると作品がどんどん型にはまっていってつまらなくなります。そういった制約もなるべくぎりぎり減らしているつもりです。
――― この先、手がけようとしていることがあったら知りたいです。
この近くにもうひとつ同じような劇場を作りたいですね。もう少し小さな50~80席くらいの。
――― 劇場の自主企画があったら教えてください。
いろいろ変わった公演、趣向をこらしたイベントをやっていますので、ぜひ観に来てください。近々では、「異端×異端シリーズ」というものがあります。OM-2の100kgを超える太った俳優・佐々木敦のソロと今若手ダンサーで最も注目されている川村美紀子さんのソロの2本立て公演が、10月10日、11日にあります。また毎年、ゴールデンウイークは「現代劇作家シリーズ」、7月~8月は、「ダンスがみたい!」、11月には、「ダンスがみたい!新人シリーズ」などの企画がありますよ。
d-倉庫はどんなところか、ほとんど知識がないまま、どんなホールなのだろうかという好奇心で取材させていただいたのだが、ホールのマイナージャンルへの応援姿勢を知って感激した。日本ではパフォーミングアートそのものがまだ、マイナージャンルのような気がする。もちろん伝統芸能や知名度のある監督が手がけた作品など、発売と同時にチケットが完売するものもあるが、文化予算が舞台に割かれる率も少なく多くの団体はいろいろ苦労が多い。
d-倉庫とまではいかなくても、応援できることを探していきたいと思った。(稲葉洋子)
d-倉庫 116-0014 東京都荒川区東日暮里6-19-7
Tel 03-5811-5399 E-mail d-soko@d-1986.com
営業時間 18:00~23:00 定休日 月曜
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