JIBUNマガジン 文京区

2016年07月号 vol.12

【面白人】バリキャリからカフェママ、次はイタリアへ移住!「ほっ。とカフェ&バー」創業者で4児の母、鈴木礼子さん

2016年07月02日 13:03 by Takako-Oikawa
2016年07月02日 13:03 by Takako-Oikawa
 遊具や絵本があり、子連れで過ごせる文京区西片の「ほっ。とカフェ&バー」創業者の鈴木礼子(あやこ)さんがこのほど、お店の経営を知人に譲り、4人の子どもとイタリアへ移住すべく、旅立った。外資系企業でバリバリ働くキャリアウーマンから4年前にカフェのママに転身。今度はイタリア中部、広大な敷地に建つ古民家のオーナーとして、果樹園やカフェがあるオーガニックな暮らしをめざす。「君は回遊魚。止めたら死んじゃうでしょ」と言って送り出してくれた夫は日本に残って「稼ぎ役」をするとか。「心の広いダンナでよかった」と言う鈴木さんは、「一度きりの人生。好きなことをやらなきゃ」と、次の夢をかなえるべく、大海へ泳ぎ出した。
 
左が鈴木さん、右はカフェを引き継いだ山北さん
 
  イタリアは、ドイツで働いていた独身時代から休暇の度に旅行したし、取引先もあったのでよく訪ねた国。しかし移住のイメージがわいたのは2014年夏、4人目の子を産んですぐ、子連れでイタリアを旅行したときのことだ。農園があって、木々に囲まれた邸宅があって。犬や子どもたちが遊んでいる。そんな青写真が浮かび、一気に絵を描いて帰国後自宅のトイレに貼っておいたという。翌2015年にまたイタリア旅行をしたとき、世話焼きのおばちゃんが不動産屋を紹介してくれて物件を見たり、ネットで検索した物件を見たりしていて出合ったのが、3000㎡の土地に建つ築200年のオンボロ長屋。一目で気に入ったが、高かったし、本気で購入するつもりはなかった。ところが半分冗談で、これぐらいなら出せるという金額を提示したところ、あれよあれよという間に契約成立。青写真を実行する運びとなったそうだ。

店内は広くないが、遊具がある

 「ほっ。とカフェ&バー」を2012年に開いたときも、物件を見たとき、ぱあっとカフェの風景が目に浮かんだという。
それまでは、ドイツ系の商社の日本法人で働くバリキャリだった。入社したてのころは、仕事の自由度が高く、創造的なことができたので、仕事がおもしろかった。3食コンビニ弁当、早朝から仕事をこなし、ドイツへの出張も、徹夜もざら。社長のアシスタントもやったし、部下50人を持つヘッドにもなった。

 32歳で1人目を出産したときも、産休明けで復帰。その子が1歳のとき大阪転勤を言い渡されたが、親戚のサポートを受けながら「子連れ単身赴任」をこなした。2人目出産後も産休明けで復帰。保育園に入れず、子どもをおんぶして六本木のオフィスに出勤、ベビーシッターを雇ってオフィスの一室で保育してもらった。スーツに身を固め、ハイヒールをカツカツ鳴らしながら、オフィスと家と保育園を走り回る日々。ドイツとは時差があるため、子どもを寝かしつけてから仕事をした。深夜にトラブル対応で右往左往することだってあった。でも、「子どもがいても、仕事のペースは作れるし、大変ではない」と思っていた。「仕事も育児もこなせるカッコいい私」に酔っていたのかもしれない、という。
 
 転機は3人目ができたとき。子育てを助けてくれていた母は「3人はみられないわ」と言った。子育てに理解のあった社長も代わった。13年間の会社員生活で、ゼロから積み上げてきた仕事のプロセスが整備されてルーチン化し、「私の仕事上の役割は終わったかな」という気もしていた。何より、上の子2人のときと違い、出産前と同じ部署ではなく、違う部署に配属となった。「3人子どもがいて大変だし、条件は下がるけど楽な仕事に、と言われて。違うな、と思った」

 違和感を抱えながら復職してしばらくして、いつも歩いている通りの空き店舗の「テナント募集」の文字が目に入り、なんとなく中を見せてもらったら、カフェのイメージがわいた。「子連れで行けるカフェがないよね、と。夜、寒空でママ友と話すこともあったから、気軽にママが飲みに行けるところがあってもいいな、と」。その日のうちに退職を決意、復職2カ月後にはカフェを始めていた。「もうけるつもりはなかったし、資金が底をついたらやめればいいや、と」
 
4人目妊娠中、店の前で(2014年5月)

 それから4年。千葉県の鴨川自然王国の野菜を使い、自然食系の食事を出す店として、子連れで行けるカフェとして、イベントスペースとして、たくさんの人とのつながりが生まれ、お金には換えられない喜びを味わった。「私自身がこんなにおしゃべりだとは、店を開くまで気づかなかった」というほど、会社員時代とは180度違う生活に転換した。4人目も授かった。
 
産後すぐ、子連れでお店に立った。イタリア旅行も生後2カ月の子と共に

 一方で、田舎暮らしにあこがれていた。そんなとき、イタリア旅行をして「ここだ」と思った。「イタリアって、もう30年以上経済破綻しているのに、みんな豊かに暮らしているじゃないですか。食べ物はおいしいし、ファッションもアートも盛んだし。衣食住に喜びを見出している。なんといってもローマ帝国を築いた国ですし、生きるすべを知っている」
 とはいえ、本当に移住する勇気はないのが一般的だが・・・「みなさん、常識に縛られすぎてるんじゃないですか。他人に迷惑をかけない限り、自分中心で考えていいのに」。3人目を産んだあと、がんの手術をし、死の恐怖を感じたことも影響している。「好きなことをやって生きなきゃ。やらないで後悔するより、やろう、と思うようになった。 いつでも『いい人生だった』と思えるように」
 子どもの教育を考えてのためらいはないのだろうか。4人の子どもは2歳~10歳。「だから今しかないんです。人生の中で子どもと寄り添える限定期間じゃないですか」。子どもたちもイタリア行きを喜んでいるという。まずは井戸を掘ろう。敷地内にラベンダーやオリーブを植えて、民宿をやろう・・・やりたいことは次から次へと浮かんでくる。

 「テンポラリーに始めたカフェだけど、会社員をやってたら出会えなかったような方と知り合えてよかった。その中からお店のコンセプトに共感してくれて、引き継いでくれる方も現れた。たくさんの出会いと喜びに感謝します」
 
子連れで参加できるイベントに貸し出すこともある

 「ほっ。とカフェ&バー」は内装も変わらぬまま、今まで通り営業中だ(バータイムは休業中)。詳細はサイトで。

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